・・・それは固より宗教を理窟詰にしようという考えであったから、唯物論に傾いていた僕には何だか善くもわからぬ癖に、耶蘇教でも仏教でもただ頭から嫌いで仕方がなかった。それが近年に至って文学上の趣味を楽むようになってから、智識的な事には少しあきが来て、・・・ 正岡子規 「病牀苦語」
・・・更に、「ルポルタージュなるものは『物が人をうごかす』という唯物論的文学観によるのであり、今日この形式の文学が文壇の関心事となったこともそこに根拠があるのである」と、結ばれているが、既に現代の文学観は、「物が人を動かす」面にだけ立脚したプレハ・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・文学の創作方法の問題では、プロレタリア・リアリズム・唯物弁証法的創作方法、社会主義的リアリズムへと世界の歩みにしたがって進み、全国に文化、文学サークル組織のつくられた時期であった。 そして当時のファシズム権力の下でサークルの活動は、人民・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第九巻)」
・・・キリスト教は唯物論によって脅かされているのではない。日本ではキリスト信者が戦争を阻止しなかった事実によってゆらいでいるのである。今日、聖母マリアの信仰を美しい言葉で語る人がいる。しかし現代の世紀にピエタのマリアでないほかのマリアがどこの世界・・・ 宮本百合子 「生きつつある自意識」
・・・プロレタリア作家が唯物弁証的把握によって自身の階級の当面の革命的モメントを正確に政治的に把握し得さえすれば――社会的矛盾における複雑活溌な相互関係とそれに対して階級として働きかけるプロレタリアートの革命性を具体的にとらえ得さえすれば、作品に・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・歴史から革命の歴史とその発展の理論をわがものとし、先進的なイギリスの経済学を発展的に学びとり、同時に哲学の領域では、大学時代からの研究によってヘーゲルからぬけ出し、やがてフォイエルバッハからも育ち出て唯物弁証法に立つ史観と階級闘争の理論を確・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・丁度ソヴェト同盟では前年に第一次五ヵ年計画を完遂した結果、これまでのプロレタリア芸術理論を発展させるような社会条件がそなわって来て、従来の唯物弁証法的創作方法を、社会主義的リアリズムにおしすすめた。その社会主義的リアリズムの創作方法の理論は・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・本当に、唯物弁証主義的手法――プロレタリア・リアリズムを獲得するために、芸術は、どこまでも生産の場所になければならない、と。 五箇年計画による生産手段の変化がドシドシ大衆の社会的心理を変えてゆくその社会的心理を把握するために、作家は生産・・・ 宮本百合子 「「鎌と鎚」工場の文学研究会」
・・・ もしもコンミニストが、此の文学の、恰も科学の持つがごとき冷然たる素質を排撃するとしたならば、彼らの総帥の曾て活用したる唯物論と雖も、その活用させたる科学的態度を、その活用なし得た科学的部分に於て排撃されねばならぬであろう。・・・ 横光利一 「新感覚派とコンミニズム文学」
・・・古い偶像とともに力強く再興した唯物論も、新時代の自然科学的運動の動機となりながら、その花々しい新眼界展開の陰に隠されてしまった。 文芸復興の運動はいろいろの意味で偶像破壊の運動だったに相違ない。しかし根本においてはそれは字義通りに古代の・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
出典:青空文庫