・・・この歌は、或女の処へ、其女の亭主の幽霊が出て来て、自分は遠方で死だという事を知らすので、其二人の問答の内に、次のような事がある。“Is there any room at your head, Willie?Or any roo・・・ 正岡子規 「死後」
・・・こんな問答でもあるとその間だけ気が紛れて居るが、そんな事も度々はない。退屈の余り凱旋の七絶が出来たので、上の桟敷の板裏へ書きつけて見たが、手はだるし、胸は苦しし遂に結句だけ書かずにしまった。その内にも船はとまって居るのでもないからその次の日・・・ 正岡子規 「病」
・・・いよいよ今日も問答がはじまった。しめ、しめ、これだから野宿はやめられん。」大学士は煙草を新らしく一本出してマッチをする声はいよいよ高くなる。もっともいくら高くてもせいぜい蚊の軍歌ぐらいだ。「それはたしかにその通りさ、・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
・・・ 豚はこれらの問答を、もう全身の勢力で耳をすまして聴いて居た。あんまり豚はつらいので、頭をゴツゴツ板へぶっつけた。 そのひるすぎに又助手が、小使と二人やって来た。そしてあの二つの鉄環から、豚の足を解いて助手が云う。「いかがです、・・・ 宮沢賢治 「フランドン農学校の豚」
・・・ そんな問答をしているうちに、一太は残りの納豆も買って貰った。一太は砂埃りを蹴立てるような元気でまた電車に乗り、家に帰った。一太は空っぽの竹籠を横腹へ押しつけたり、背中に廻してかついだりしつつ、往来を歩いた。どこへ廻しても空の納豆籠はぴ・・・ 宮本百合子 「一太と母」
・・・私は軒先に立って面白い問答をききながら向いの雑貨店の店さきで小さい子供の母親の膝にもたれて何か云ってあまったれて居るのを自分もあまったれて居るような気になって望めて居る。帳場に坐って新聞をよんで居たはげ頭の主が格子の中から十二文ノコウ高はお・・・ 宮本百合子 「大きい足袋」
・・・ フランツは久しく木精と問答をしなかったので、自分が時間の感じを誤っているかと思って、また暫くじいっとして待っていた。 木精はやはり答えない。 フランツはじいっとしていつまでもいつまでも待っている。 木精はいつまでもいつまで・・・ 森鴎外 「木精」
・・・こんな問答をしているうちに、エルリングは時計を見上げた。「御免なさい。丁度夜なかです。わたしはこれから海水浴を遣るのです。」 己は主人と一しょに立ち上がった。そして出口の方へ行こうとして、ふと壁を見ると、今まで気が附かなかったが、あっさ・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・あるいは狗子仏性を問答する禅僧である。あるいは釈迦の誕生を見まもる女の群れである。風景を描けば、そこには千の与四郎がたたずんでいる。あるいは維盛最後の悲劇的な心持ちが、山により川によって現わそうと努められている。さらに純然たる幻想の物語を、・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
・・・松永貞徳とともに、『妙貞問答』の著者不干ハビアンを訪ねた時の記事である。その時、まず第一に問題となったのは、「大地は円いかどうか」ということであった。羅山はハビアンの説明を全然受けつけず、この問題を考えてみようとさえしていない。次に問題とな・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫