・・・ これまで云いもしなかった社会部面について書くと、作家ABCは消滅して、啓蒙パンフレット屋がかく通りの用語、表現で作家が書きはじめるということは、過渡期のあらわれとしても、現代文学の明日への真実な成長のために、考えさせるところが少くない・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・の翻訳文学が一方にあり、福沢諭吉の新興ブルジョアジーの啓蒙者としての活動が重大な指針となった時代が去った後は、徳川末期の戯作者の気風、現実に対する無批判な妥協的態度が、西欧の文学的潮流の移植の側らにあって、常に日本の近代性の中に含まれている・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・新興文化の先駆としての福沢諭吉の啓蒙的文筆活動、翻訳小説と、魯文の文学とは、近代社会建設に向う意欲とその思想とに於て、役割に於て、本質を異にしたものであった。坪内逍遙の「小説神髄」が日本の近代小説への道を示したことは周知である。文芸理論に於・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 明治の初期の文学では、江戸末期の戯作者風な作者と黎明期の啓蒙書・翻訳文学が対立したが、尾崎紅葉の硯友社時代には、仏文学の影響やロシア文学の影響をもちながら、作家気質の伝統は戯作者気質の筋をひいていた。坪内逍遙の「当世書生気質」は、日本・・・ 宮本百合子 「作家と教養の諸相」
・・・ 科学者が自身の科学的知識によって文筆上いろいろ遊ぶのがいけないと一口に云い切れないかもしれないが、少くとも本当の科学者であるならば、科学の健全性、啓蒙性に沿って、こういう種類の余技、或は道楽をするべきであると思う。それは科学者としての・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・そして母が彼女等の芸術的な或は政治的な啓蒙を吸いこんでいる間、それらの母の赤坊は「母と子の室」の小さい白い寝台の上で静かに眠り、かれらの酸素を吸っているのである。〔一九三一年一月〕 宮本百合子 「三月八日は女の日だ」
・・・階級の文学を、組合主義、目先の効用主義一点ばりで理解するように啓蒙されて来た人があるとすれば、その人は街の角々に貼り出されていた矢じるし目あてに機械的に歩かせられて来ていたようなものだから、一夜の大雨ですべての矢じるしが剥がれてしまったある・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
・・・一つの本からひき出された新しい興味によって、又その方へ読書をひろげてゆくという風で、小説のほかのいろんな啓蒙的な科学・哲学の本をよむことが出来た。 今思えば、貴重なのは決して、そうやって読んだ何冊かの本の知識ではなかった。一人の人間の裡・・・ 宮本百合子 「時代と人々」
・・・それは、東京書籍舘書目と云う一冊、飜刻智環啓蒙と云う何のことだか題では私などに見当もつかないもの、及、明治十五年前半期の福島警察枢要書類等である。 東京書籍館は、今の上野帝国図書館の前身である。いつ何処だのかは覚えないが、この書籍館時代・・・ 宮本百合子 「蠹魚」
・・・この科学博物館の映画からも原理を形象的に啓蒙してゆく方法がいかに多様で自由で人間的で具体的であり得るかということを考えさせられた。 文学は今日、あながち源氏物語をかりないでも、世界文学の間に一つの明瞭な日本としての独自性をもって存在して・・・ 宮本百合子 「市民の生活と科学」
出典:青空文庫