・・・と野袴の一人が囃す。 横の馬小屋を覗いてみたが、中に馬はいなかった。馬小屋のはずれから、道の片側を無花果の木が長く続いている。自分はその影を踏んで行く。両方は一段低くなった麦畠である。お仙の歌はおいおいに聞えなくなる。ふと藤さんの事が胸・・・ 鈴木三重吉 「千鳥」
・・・チェルシーの哲人と人が言囃すのは御前の事かと問う。なるほど世間ではわしの事をチェルシーの哲人と云うようじゃ。セージと云うは鳥の名だに、人間のセージとは珍らしいなと演説者はからからと笑う。村夫子はなるほど猫も杓子も同じ人間じゃのにことさらに哲・・・ 夏目漱石 「カーライル博物館」
・・・というものを歌って、「えとさっさ」と囃す。好いとさの訛であろう。石田は暫く見ていて帰った。 雛は日にまし大きくなる。初のうち油断なく庇っていた親鳥も、大きくなるに連れて構わなくなる。石田は雛を畳の上に持って来て米を遣る。段々馴れて手掌に・・・ 森鴎外 「鶏」
出典:青空文庫