・・・ 憫むべし晩成先生、嚢中自有レ銭という身分ではないから、随分切詰めた懐でもって、物価の高くない地方、贅沢気味のない宿屋を渡りあるいて、また機会や因縁があれば、客を愛する豪家や心置ない山寺なぞをも手頼って、遂に福島県宮城県も出抜けて奥州の・・・ 幸田露伴 「観画談」
身には疾あり、胸には愁あり、悪因縁は逐えども去らず、未来に楽しき到着点の認めらるるなく、目前に痛き刺激物あり、慾あれども銭なく、望みあれども縁遠し、よし突貫してこの逆境を出でむと決したり。五六枚の衣を売り、一行李の書を典し・・・ 幸田露伴 「突貫紀行」
・・・で、八犬士でも為朝でも朝比奈でも皆儒教の色を帯びて居ります。仏教の三世因果の教えも社会に深く浸潤して居りました。で、八犬士でも為朝でも朝比奈でも因縁因果の法を信じて居ります。神仙妖魅霊異の事も半信半疑ながらにむしろ信じられて居りました。で、・・・ 幸田露伴 「馬琴の小説とその当時の実社会」
・・・ この巻の作品を、お読みになった人には、すぐにおわかりのことと思うが、井伏さんと下宿生活というものの間には、非常な深い因縁があるように思われる。 青春、その実体はなんだか私にもわからないが、若い頃という言葉に言い直せば、多少はっきり・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
・・・前世の因縁とでも言うべきか、先生は、その水族館の山椒魚をひとめ見たとたんに、のぼせてしまったのである。「はじめてだ。」先生は唸るようにして言うのである。「はじめて見た。いや、前にも幾度か見たことがあるような気がするが、こんなに真近かに、・・・ 太宰治 「黄村先生言行録」
・・・HOFFMANN「悪因縁」 KLEIST「地震」 KLEIST それにつづいて、四十篇くらい、みんな面白そうな題の短篇小説ばかり、ずらりと並んでいます。巻末の解説を読むと、これは、ドイツ、オーストリア、ハンガリ・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・ これが銀行員チルナウエルの大事件に出逢う因縁になったのである。チルナウエルはいつか文士卓の隅に据わることを許されていたのである。 * * * ある日の事であった。まだ時間は早い。・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・それが最近に不思議な因縁からある日の東京劇場におけるその演技を臍の緒切って始めて見物するような回り合わせになった。それで、この場合における自分と、前記の亀さんや試写会の子供とちがうのはただ四十余年の年齢の相違だけである。従ってこの年取った子・・・ 寺田寅彦 「生ける人形」
・・・ ついでながら、自分のような門外漢がこの講座のこの特殊項目に筆を染めるという僣越をあえてするに至った因縁について一言しておきたいと思う。元来映画の芸術はまだ生まれてまもないものであってその可能性については、従来相当に多数な文献があるにも・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・何かの因縁が二十年前とつながっているような気もした。それがちょうど中元の頃で、この土地の人々は昔からの風習に従って家々で草を束ねた馬の形をこしらえ、それを水辺に持出しておいてから、そこいらの草を刈ってそれをその馬に喰わせる真似をしたりしてい・・・ 寺田寅彦 「海水浴」
出典:青空文庫