・・・ ――さて、毛越寺では、運慶の作と称うる仁王尊をはじめ、数ある国宝を巡覧せしめる。「御参詣の方にな、お触らせ申しはいたさんのじゃが、御信心かに見受けまするで、差支えませぬ。手に取って御覧なさい、さ、さ。」 と腰袴で、細いしない竹・・・ 泉鏡花 「七宝の柱」
・・・ 考えてみると、僕たちだって、小さい時からお婆さんに連れられてお寺参りをしたり、またお葬式や法要の度毎に坊さんのお経を聞き、また国宝の仏像を見て歩いたりしているが、さて、仏教とはどんな宗教かと外国の人に改って聞かれたら、百人の中の九十九・・・ 太宰治 「世界的」
・・・ ここまで書いて筆を擱くつもりでいたら、その翌日人に誘われて国宝展覧会を観に行った。古い絵巻物のあるものを見ていたらその絵の内容とその排列に今のレビューと実によく似たものがあることに気が付いた。やはり天が下に新しいものは一つもないと思っ・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・ところがこの老博士は今年八十四五歳であり、君子であり品格をもった国宝的建築家でありますが、現実の社会事情からは些か霞の奥に在る。ために国男はじめ所員一同具体的な生活的な面で安心して居られず、という有様です。せちがらさを、この老大家は道徳的見・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
法隆寺が焼けて、あの見ごとな壁画が修理もきかないほどひどくなってしまった。されに新聞記事を見たとき、わたしの胸のなかで大きななみがくずれた感じがした。有名であったり、国宝であったりしても美しくない美術品もある。法隆寺の壁画・・・ 宮本百合子 「国宝」
・・・古い古い女の人を見ると、うちの国宝だとか、生字引だとか、女でないものになったような扱いをする。そういうことから、苦しくて罷めてしまうという場合もある。それから家庭における女の人がやはりあまり利巧でも困るが馬鹿でも困るというひどい扱いを受けて・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
出典:青空文庫