・・・日本語もこういうぐあいに活用させる人ばかりだったら、字を見なければわからないあるいは字を見ても読めないような生硬な術語などをやめてしまって、もう少し親しみのあるものに代える事ができそうである。国語調査会とかいうものでこういういい言葉を調べ上・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・というのをおろしてくれたのが近所の国語の先生の奥さんであった。家伝の名灸でその秘密をこの年取った奥さんが伝えていたのである。なんでも紙撚だったか藁きれだったか忘れたが、それでからだのほうぼうの寸法を計って、それから割り出して灸穴をきめるので・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ 数学が一種の国語であるとしても、それはきわめて特別な国語であることには間違いない。少なくとも高等数学となると一般世人にはあまり用のないこと、あたかもサンスクリットやヘブライのようなものである。用がないから習わない、習わないからたいそう・・・ 寺田寅彦 「数学と語学」
・・・私は英語はよめないが、国語が得意だったし、お話が比較的上手だったから、先生がえらんだろうと思う。話の筋をよく暗記しておいて、林が一と区切りする毎に、私も本を見ないで通訳をした。 学芸大会では拍手喝采だった。各小学校の校長先生たちや、郡長・・・ 徳永直 「こんにゃく売り」
・・・それがある事情のため断然英国を後にして単身日本へ来る気になられたので、余らの教授を受ける頃は、まだ日本化しない純然たる蘇国語を使って講義やら説明やら談話やらを見境なく遣られた。それがため同級生は悉く辟易の体で、ただ烟に捲かれるのを生徒の分と・・・ 夏目漱石 「博士問題とマードック先生と余」
・・・私はなおかかる問題について考えて見たことはないが、一例をいえば、俳句という如きものは、とても外国語には訳のできないものではないかと思う。それは日本語によってのみ表現し得る美であり、大きくいえば日本人の人生観、世界観の特色を示しているともいえ・・・ 西田幾多郎 「国語の自在性」
・・・ sens という語は他の国語に訳し難い意味を有っている。それは「センス」sense でもない、「ジン」 Sinnでもない。マールブランシュはいうまでもなく、デカルトにすらそれがあると思われる。しかし私はフランス哲学独得な内感的哲学の基礎は・・・ 西田幾多郎 「フランス哲学についての感想」
・・・彼は和歌の簡単を斥けて唐詩の複雑を借り来たれり。国語の柔軟なる、冗長なるに飽きはてて簡勁なる、豪壮なる漢語もてわが不足を補いたり。先に其角一派が苦辛して失敗に終りし事業は蕪村によって容易に成就せられたり。衆人の攻撃も慮るところにあらず、美は・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・僕は国語と修身は農事試験場へ行った工藤さんから譲られてあるから残りは九冊だけだ。四月五日 日南万丁目へ屋根換えの手伝え(にやられた。なかなかひどかった。屋根の上にのぼっていたら南の方に学校が長々と横わっているように見えた・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
・・・では一年生の人はお習字のお手本と硯と紙を出して、二年生と四年生の人は算術帳と雑記帳と鉛筆を出して、五年生と六年生の人は国語の本を出してください。」 さあするとあっちでもこっちでも大さわぎがはじまりました。中にも三郎のすぐ横の四年生の机の・・・ 宮沢賢治 「風の又三郎」
出典:青空文庫