・・・……先達って、奥様がお好みのお催しで、お邸に園遊会の仮装がございました時、私がいたしました、あの、このこしらえが、余りよく似合ったと、皆様がそうおっしゃいましたものでございますから、つい、心得違いな事をはじめました。あの……後で、御前様が御・・・ 泉鏡花 「紅玉」
・・・ そこで、左も右くも今日、文学が職業として成立し、多くの文人中には大臣の園遊会に招かれて絹帽を被って出掛けるものも一人や二人あるようになったのは、文人の社会的位置が昔から比べて重くなった証拠であるが、我々は猶お進んで職業上の権利を主張し・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・先達て宮中の園遊会で音楽者、戯曲家、文学者を招待されたが科学者は呼ばれなかった」とこぼしている。 蚊の撲滅 北米バルチモアーでは蚊のためにいろんな病気の流行るのを防ぐために一昨年市会で二万円ほど支出して撲滅にかかっ・・・ 寺田寅彦 「話の種」
・・・自動車にも乗ろう。園遊会にも行こう。浪花節も聞こう。女優の鞦韆も下からのぞこう。沙翁劇も見よう。洋楽入りの長唄も聞こう。頼まれれば小説も書こう。粗悪な紙に誤植だらけの印刷も結構至極と喜ぼう。それに対する粗忽干万なジゥルナリズムの批評も聞こう・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・横になって煖まりながらいろいろ考えて居たが、この家の檐から庭の樹から一面に毬燈を釣って、その下へ団子屋や鮓屋や汁粉屋をこしらえて、そしてこの二、三間しかない狭い庭で園遊会を開いたら面白いだろうという事を考えついた。〔自筆稿『ホトトギス』・・・ 正岡子規 「熊手と提灯」
・・・おまえは二十七日の晩ファゼーロと連れだって村の園遊会へ闖入したなあ。」「闖入というわけではありませんでした。明るくていろいろの音がしますので行って見たのです。」「それからどうした。」「それからわたくしどもが酒を呑まんと云いますと・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・十二年前、二人の娘とカルタで負けた借金をのこして良人が死んだ後、子供を育て、借金をかえし、現在ではパリで有名な衣裳店を開いている美しい中年の寡婦ジェニファーが、或る貴族の園遊会でコルベット卿にめぐり会い、その偶然が二人を愛へ導いて結婚するこ・・・ 宮本百合子 「雨の昼」
・・・――芝居の園遊会じみた場面を作って通り過た。 写真をとるという時、前列に踞んだ芸者が、裾を泥にしまいと気にして、度々居ずまいをなおした。頭のてっぺんが平べったいような、渋紙色の長面をした清浦子は、太白の羽織紐をだらりと中央に立っていたが・・・ 宮本百合子 「百花園」
・・・演劇園遊会。三つの芸術の舞踏会。――そこにミス・メイシーの頭脳がいる。婦人水着の新型がニューボンド通に現れるより遅くも早くもない時に游泳祝祭を。そして、貧しき母の為の産院寄附金募集には上流貴婦人連が各自家重代の銀器を持ち出して華々しい展覧会・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫