・・・ この方面から考えると、地震というものの背景には我地球の外殻を構成している多様な地層の重畳したものがある。それが皺曲や断層やまた地下熔岩の迸出によって生じた脈状あるいは塊状の夾雑物によって複雑な構造物を形成している。その構造の如何なる部・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
・・・そのような平和な景色のかたわらには切り立った懸崖が物すごいような地層のしわを露出してにらんでいたりする。湖の対岸にはまっ黒な森が黙って考え込んでいる。 ルツェルンも想像のほかに美しかった。ここから先の地形が、なんとなく横浜大船間の丘陵起・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・仏蘭西の地層から切出した石材のヴェルサイユは火事と暴風と白蟻との災禍を恐るる必要なく、時間の無限中に今ある如く不朽に残されるであろう。けれども我が木造の霊廟は已にこの間も隣接する増上寺の焔に脅かされた。凡ての物を滅して行く恐しい「時間」の力・・・ 永井荷風 「霊廟」
・・・ぼくらからみると、ここは厚い立派な地層で、百二十万年ぐらい前にできたという証拠もいろいろあがるけれども、ぼくらとちがったやつからみてもやっぱりこんな地層に見えるかどうか、あるいは風か水やがらんとした空かに見えやしないかということなのだ。わか・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・じっと竦んで、右を見、左を眺め廻した末、子供は恐ろしさに我慢が出来なくなって、涙をこぼし泣き乍ら、小さい拳で、広い地層を叩き出した。「よう! よーお!」 両方の絶壁は子供の感情を知った。憐れに思い、何とかしてやりたく思う。泣声は次第・・・ 宮本百合子 「傾く日」
・・・烈しい力で地層を掻きむしられたように、平らな部分、土や草のあるところなど目の届く限り見えず、来た方を振りかえると、左右の丘陵の巓に、僅か数本の躑躅が遅い春の花をつけているばかりだ。森としている。硫黄の香が益々強い。 自然の圧迫を受け、黙・・・ 宮本百合子 「白い蚊帳」
・・・この高台は、昔東京の海がずっと深く浅草附近まで入りこんでいたそれより昔、武蔵野の突端をなして、海へきっ立っていた古い地層である。 低地にひろがった尾久方面も、高台も、今は一面の焼け野原となっていた。アスファルトの道ばたには、半分焦げのこ・・・ 宮本百合子 「風知草」
出典:青空文庫