・・・その問題は型式的には刑事探偵が偶には出くわす問題とおなじようなものかと思われた。 問題を分析するとつぎのようになる。 問題。宅の近所のA家は新聞所載のA家と同一か。同一ならばその家の猫Bと、宅の庭で見かけた猫Cと同一か。そうだとすれ・・・ 寺田寅彦 「ある探偵事件」
・・・等種々の型式が区別されるようになってからはこれらモンタージュの理論的の討議がいろいろと行なわれるようになって来た。たとえばエイゼンシュテインはその「映画の弁証法」において、プドーフキンらのモンタージュ論の基礎的概念を批評し、これに代わるべき・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・高速度活動写真でとった、いわゆるスローモーションの競走映画で見ると同じような型式の五体の運動を、任意の緩速度で実行できるかというと、これは地球の重力gの価を減らさなければむつかしそうに思われる。できるだけのろく「歩く」競技も審査困難と思われ・・・ 寺田寅彦 「記録狂時代」
・・・ たとえば、ある学者が一株の椿の花の日々に落ちる数を記録して、その数の日々の変化異同の統計的型式を調べ、それが群起地震の日々あるいは月々の頻度の変化異同の統計的型式と抽象的形式的に類型的であるという論文を発表したとする。そのような、ほん・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・そう言えば培養された黴菌の領土の型式の中にも多少類似のものがあったように思うが、これも何かの思い違いかもしれない。しかしそういういろいろな生物学的方面における形態的類型にも注意を怠らないようにしたいものだと思う。案外、そういう方面から有益な・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・ 殺人事件というものが古来一つもなかったらどうにもならない話であるが、幸か不幸か昔からありとあらゆる種類や型式の殺人事件の数が実におびただしい多数に上っており、そうしてそれらの一つ一つについてはまた実にいろいろの記録が残っている。古い昔・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・今のところでは既にいくらかの定型が出来ているようでありますが、しかしもっとちがった型式がまだまだいろいろあってもよいような気がするのであります。 一人の作者の一聯の連作と並んで別の題でまた同じ人の数首の歌の出ているのは、私のような眼で読・・・ 寺田寅彦 「書簡(2[#「2」はローマ数字2、1-13-22])」
・・・ 可笑しいことには、古来の屋根の一型式に従ってこけら葺の上に石ころを並べたのは案外平気でいるそのすぐ隣に、当世風のトタン葺や、油布張の屋根がべろべろに剥がれて醜骸を曝しているのであった。 甲州路へかけても到る処の古い村落はほとんど無・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・ただこういうものからだんだんに現在の短歌型式が発生して来たであろうということは、これらの詩の中で五および七の音数から成るものが著しく多数であることから想像される。しかしこれも本当の統計的研究をした上でなければ確かな事は云われない。今ここで問・・・ 寺田寅彦 「短歌の詩形」
・・・この本のところどころに現われる自然界と人間の交渉、例えば第十九段に四季の景物を列記したのでも、それが『枕草子』とどれだけ似ているとか、ちがうとかいう事はさておいて、その中には多分の俳諧がある。型式的概念的に堕した歌人の和歌などとは自ずからち・・・ 寺田寅彦 「徒然草の鑑賞」
出典:青空文庫