・・・ 常に労働者と鼻突きあわして住み、また農産物高の半面、増税と嵩ばる生活費に、農産物からの増収を吐き出して足りない百姓の生活を目撃している者には、腑甲斐ない話だとそれは嘆ぜられるのだ。攻勢の華やかな時代にプロレタリア文学があって、敗北の闇・・・ 黒島伝治 「田舎から東京を見る」
・・・煙草の増税で二千万円ばかり収入があったそうだが、七割はバットだってね。バットは一個について一銭だから、率は一等すけないみたいなんだが、何しろ皆が喫うもんだから。――考えたもんだね。といいながらそのひとは自分もバットの吸いがらを、唇をやきそう・・・ 宮本百合子 「打あけ話」
・・・ 特別議会が終ったが、ここで臨時増税が決定した。新たに増税されるものの種目に、写真機及その附属品、原料というのがある。フィルム、原像液、引延機、みんな其々に税がかかるのであろう。写真機の大衆化は、その生産過程の特殊性から或る方面の支持に・・・ 宮本百合子 「カメラの焦点」
・・・経済事情の悪化は、原因として日常のこまかいものにまで及ぼしている増税、それに伴う物価の騰貴が直接のきっかけとなっており、増税のよって来るところの同じ源から、誰の胸に問うても明らかな思想的な一方的傾向の重圧がある。社会の事情は昨今まことに複雑・・・ 宮本百合子 「今日の文学に求められているヒューマニズム」
・・・経済の枢軸の廻転は民衆にとっては増税としてのみ最もはっきり感得されるという状態である。小説は、果してこの急激な底潮を感じさせる時代の空気と動向とを芸術化しているであろうか。 文学の仕事に従事するのは何時の時代にもそれぞれの階級の知識的な・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・ 例えば増税、物価騰貴に対して大衆は、先ず否定的な感情をもたざるを得ず、その表現は自然否定的な形から入って行く。文学では近頃日本的なものが云々されているが、私たちが日本人であり、しかも最も日本語というものの内容表現と密接に結ばれている日・・・ 宮本百合子 「プロ文学の中間報告」
昨年の後半期から、非常に恋愛論がとりあげられ、いろいろの雑誌・新聞の紙面がにぎわった。一方に社会の有様を考えて見ると、二・二六事件の後、尨大な増税案がきめられて、実際に市民生活は秋ごろからその影響をうけはじめている。煙草・・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
出典:青空文庫