・・・そういう絵に限って大概価値と反比例に大きな壁面を占有していると思う事もあった。そういう絵はむしろ小形の下絵を陳列した方がいいかもしれない。私はある種の装飾的の絵は実際そうした方が審査員にも作家にもまた観賞者にも双方便宜ではないかと考えている・・・ 寺田寅彦 「帝展を見ざるの記」
・・・それをかれこれ三十年後の今日思いもかけぬ東京の上野の美術館の壁面にかかった額縁の中に見いだしたわけである。 生まれる前に別れたわが子に三十年後にはじめてめぐり会った人があったとしたら、どんな心持ちがするものか、それは想像はできないが、そ・・・ 寺田寅彦 「庭の追憶」
・・・空はまっさおに、ビルディングの壁面はあたたかい黄土色に輝いている。 こういう光景は十年前にはおそらく見られないものであったろう。この二人はやはり時代を代表している。 ジャズのはやるゆえんである。 四 一週・・・ 寺田寅彦 「LIBER STUDIORUM」
・・・外からの光線で、見えるのは数段のはしごと横のきたない壁面だけだ。鳥打をかぶった青年がドドドドとかけ下りて来て、勘定台から切抜帳みたいなものをとりまた昇って行った。 店の内部に居るのは六七人である。互に背を向け合って静に本を探している。小・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫