・・・小さい盃でちびちび一級酒なるものを飲み、その変転のはげしさを思い、呆然として、わが身の下落の取りかえしのつかぬところまで来ている事をいまさらの如く思い知らされ、また同時に、身辺の世相風習の見事なほどの変貌が、何やら恐ろしい悪夢か、怪談の如く・・・ 太宰治 「酒の追憶」
・・・と罵つたところで、結局やはりショーペンハウエルの変貌した弟子にすぎない。彼はショーペンハウエルが揚棄した意志を、他の一端で止揚したまでである。あの小さな狡猾さうな眼をした、梟のやうな哲学者ショーペンハウエルは、彼の暗い洞窟の中から人生を隙見・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・として輸入されて以来今日に到る迄に、果して如何なる日本的変貌をとげて来ているであろうか。ヒューマニズムの問題は、今日、そして明日、すべての人々の生活と文学との上に依然として重大な基調をなすものであるから、この機会にこの問題を眺め直すことも無・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 第二次大戦は、更に大規模な破壊と変貌とを地球の上にひきおこした。世界の文学には、第一次大戦ののちとは比較にならない根本的な変化がもたらされつつある。第一次大戦の後、世界の市民文学の変化は、最もはげしく中間層の生活が破壊されたドイツの社・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・芸術的価値というものは体験されなければならないことであり、体験は宗教的な要素と結びつき、信仰体験とならなければ、芸術によって人間が変貌することはあり得ないと主張している。亀井氏は、新しく文化が復興されるためには奴隷なきネロがいる、といってい・・・ 宮本百合子 「全体主義への吟味」
・・・多岐な社会生活を観察して今日に至った老芸術家が、自然に向かってもその青春時代のようにその花の色、濃い緑、枝もたわわな実の美しさだけに目をうばわれず、寧ろ、日夜を貫いて営まれている生命の流れ、その多様な変貌、永遠性などを感じるのは当然のことで・・・ 宮本百合子 「藤村の文学にうつる自然」
・・・現実に即した観察は、批判精神というものが決して抽象架空に存在し得るものではなくて、それどころか実に犇々と歴史のなかに息づき、生成し、変貌さえも辞せないものであることを理解させると思う。批判精神は情緒感性と切りはなされて存在し得るものどころか・・・ 宮本百合子 「文学精神と批判精神」
・・・古典の生れた環境の解明だけでは新しく文化を再生せしめ、「自己を変貌せしめる」役には立たず、それを憧れ、信仰し、永遠の青春として味到してはじめて血肉となるのであるから、例えば「日本的なるもの」の解釈に当って、その問題の発生を社会的な原因の面か・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・ だが、明治の初頭、『女学雑誌』を発行した人々が胸に抱いていた情熱、日本では半開のままで次の波をかぶってしまった男女の人間的平等への希望は今日どのような変貌をとげて、どこに生きつづけているであろうか。今日のロマンティシズムさえ日本では女・・・ 宮本百合子 「歴史の落穂」
出典:青空文庫