・・・そしてその日の夕刊に淀橋近くの水道の溝渠がくずれて付近が洪水のようになり、そのために東京全市が断水に会う恐れがあるので、今大急ぎで応急工事をやっているという記事が出た。 偶然その日の夕飯の膳で私たちはエレベーターの話をしていた。あれをつ・・・ 寺田寅彦 「断水の日」
・・・それだから、記者が列席もしないのに列席したような顔をして書いても少しも不都合はない、午後に行なわれる儀式に関する原稿をその午前に書いて夕刊に出す。それで大臣がさしつかえができて出席しなくても記事にはちゃんと列席して式辞を読んだことになるので・・・ 寺田寅彦 「ニュース映画と新聞記事」
友の来って誘うものあれば、わたくしは今猶向島の百花園に遊ぶことを辞さない。是恰も一老夫のたまたま夕刊新聞を手にするや、倦まずして講談筆記の赤穂義士伝の如きものを読むに似ているとでも謂うべきであろう。老人は眼鏡の力を借りて紙・・・ 永井荷風 「百花園」
・・・その年の十二月二十日すぎの或る夜、夕刊に、宮本顕治が一年間の留置場生活から白紙のまま市ヶ谷刑務所へ移されたというニュースが出ていたと、一人の友人が知らせてくれた。作者はそのとき、思わずああ! と立ち上って、殺されなかった! とささやいた。一・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・ 昨夜の夕刊には、大蔵省の初の月給振替払いの日のことがのっていた。月給百五十円以上の人々は、現金としては半額しか入っていない月給袋をうけとった。すぐ振替えをとることが出来るのだそうだけれど、私たちは閃くような思いで、うちはどうするのだろ・・・ 宮本百合子 「家庭と学生」
・・・窓の前は、モスク夕刊新聞の屋上で、クラブになっていた。着いた年の冬は、硝子張りの屋根が破れたまま鉄骨がむき出しになっていた。雪がそこから降る。春の北国の重い雪解水がそこから滴っている。荒々しい淋しい心のひきむしられる眺めであった。二年後に、・・・ 宮本百合子 「カメラの焦点」
・・・ 三人が抓みっこをしていたテーブルに、夕刊が一枚あった。私がどけようとすると、「あ一寸」とYがとめた。「その本を買うんですよ」 石川啄木の歌が広告に利用してあった。「働けど働けど我生活は楽にはならざり凝っと手を見る」・・・ 宮本百合子 「九月の或る日」
・・・ 五九種 一、四二六千七五〇農民 一〇五種 一、五三四千五〇〇青年少年 四七種 四〇七千二五〇民族語の新聞 二〇八種 一、〇〇四千七五〇夕刊 六種 三二・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・色彩は、はでであるが、何か通行人の影は黒い、今夜はクリスマス・イーヴなのだけれども、学生の街である神田でさえ、そのような楽しげな雰囲気はなく、うちへかえって夕刊を見て、ああ本当にと思ったほどです。中井から家へ来るまでの、ほんの一二丁の町並も・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ つい三四日前のことであったが、夕飯のすんだ餉台のところで、家のものと夕刊を見ていた。丁度『日の出』という大衆雑誌の広告が出ていて、そこに一つの字が目をひいた。本多式貯蓄法、林学博士本多静六。広告にそうかかれている。よほど以前にもこの博・・・ 宮本百合子 「市民の生活と科学」
出典:青空文庫