・・・およぐ時よるべなきさまの蛙かな命婦より牡丹餅たばす彼岸かな更衣母なん藤原氏なりけり真しらけのよね一升や鮓のめしおろしおく笈になゐふる夏野かな夕顔や黄に咲いたるもあるべかり夜を寒み小冠者臥したり北枕高燈籠消・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・ そんなにこの大伯母に心配をかけるに十分なだけ信二もまたかっちまりのない風にゆれる夕顔みたいなノコンとした気持で居た。 別に仕たい仕事もこの世の中には無い様に云って居た。 生涯の目的が定まって居ないからこれから先行く学校は自分で・・・ 宮本百合子 「千世子(二)」
・・・て、曲りくねッたさも悪徒らしい古木の洞穴には梟があの怖らしい両眼で月を睨みながら宿鳥を引き裂いて生血をぽたぽた…… 崖下にある一構えの第宅は郷士の住処と見え、よほど古びてはいるが、骨太く粧飾少く、夕顔の干物を衣物とした小柴垣がその周囲を・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫