・・・ 二 ユフカ村から四五露里距っている部落――C附近をカーキ色の外皮を纏った小人のような小さい兵士達が散兵線を張って進んでいた。 白樺や、榛や、団栗などは、十月の初めがた既に黄や紅や茶褐に葉色を変じかけていた。・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・ところがその蒸しパンも、その外皮が既にぬらぬらして来て、みんな捨てなければならなくなっていました。あと、食べるものといっては、炒った豆があるだけでした。少し持っているお米は、これはいずれどこかで途中下車になった時、宿屋でごはんとかえてもらう・・・ 太宰治 「たずねびと」
・・・それからある植物の枯れた外皮と思われるのがあって、その植物が何だということがどうしても思い出せなかったりした。 これらの小片は動植物界のものばかりでなく鉱物界からのものもあった。斜めに日光にすかして見ると、雲母の小片が銀色の鱗のようにき・・・ 寺田寅彦 「浅草紙」
・・・残ったものはわずかな外皮のくずと、そして依然として小さい蜘蛛一匹の「生命」である。差し引きした残りの「物質」はどうなったかわからない。 簔虫が繁殖しようとする所にはおのずからこの蜘蛛が繁殖して、そこに自然の調節が行なわれているのであった・・・ 寺田寅彦 「簔虫と蜘蛛」
・・・蚕や蛇が外皮を脱ぎ捨てるのに相当するほど目立った外見上の変化はないにしても、もっと内部の器官や系統に行われている変化がやはり一種の律動的弛張をしないという証拠はよもやあるまいと思われる。 そのような律動のある相が人間肉体の生理的危機であ・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
・・・特にその最後の言を見よ、地下の釈迦も定めし迷惑であろうと、これ何たる言であるか、何人か如来を信ずるものにしてこれを地下にありというものありや、我等は決して斯の如き仏弟子の外皮を被り貢高邪曲の内心を有する悪魔の使徒を許すことはできないのである・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・わたし達が近代的外皮に装われた最も悪質な封建性から自身の全生活を解放して、民主主義に立つ眺望ひろい人生を確保しようとするならば、活字面だけの間に思想性をかきさがさず、何より先に、自分の生活実体をはっきり自分のものとして把握しなければならない・・・ 宮本百合子 「「どう考えるか」に就て」
出典:青空文庫