・・・同じ線のリズムの余波は、あるいは衣服の襟に、あるいは器物の外郭線に反映している。たとえば歌麿の美人一代五十三次の「とつか」では、二人の女の髷の頂上の丸んだ線は、二人の襟と二つの団扇に反響して顕著なリズムを形成している。写楽の女の変な目や眉も・・・ 寺田寅彦 「浮世絵の曲線」
・・・北海道では、今でもまだ人間と動植物が生存競争をやっていて、勝負がまだ付いていないという事は札幌市内の外郭を廻っても分る。天孫民族が渡って来た頃の本土のさま、また朝鮮の一民族が移って来た頃の武蔵野のさまを想像する参考になりそうである。 札・・・ 寺田寅彦 「札幌まで」
・・・明暦大火の場合はかなりの烈風でおそらく十メートル以上の秒速であったと思われる根拠があるが、その時のこの頂角がだいたいにおいて、今度の函館の火元から焼失区域の外郭に接して引いた二つの直線のなす角に等しい。そうしてこの頂角を二等分する線の方向が・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・ところが桜が咲く時分になるとこの血液がからだの外郭と末梢のほうへ出払ってしまって、急に頭の中が萎縮してしまうような気がする。実際脳の灰白質を養う血管の中の圧力がどれだけ減るのかあるいは増すのかわからないが、ともかくもそんな気がする。そうして・・・ 寺田寅彦 「春六題」
・・・ この恐ろしい敵は、簔虫の難攻不落と頼む外郭の壁上を忍び足ではい歩くに相違ない。そしてわずかな弱点を捜しあてて、そこに鋭い毒牙を働かせ始める。壁がやがて破れたと思うと、もう簔虫のわき腹に一滴の毒液が注射されるのであろう。 人間ならば・・・ 寺田寅彦 「簔虫と蜘蛛」
・・・「日本共産党の外郭団体であるプロレタリア作家同盟の活動に従事し、共産主義を宣伝した」という理由によって起訴された。市ヶ谷刑務所におくられた。 執筆この時、評論集『冬を越す蕾』が入獄中に出版された。一月。「バルザックから何を・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・このことは近松の生れた元禄の時代が町人の擡頭と武士階級の崩壊時代ではあってもまだ身分の差別はきびしくて、封建の外郭は堅かったことを反映している。どんな卓抜な文学的天才でも、その人の生きる時代の歴史的な重みというものから、その個人だけで完全に・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・彼女の顔には絶えまなく情熱が流れている、顔の外郭は静止しているけれども表情は刻々として変わって行く。しかもその刻々の表情が明瞭な完全な彫刻的表情なのである。言いかえれば彫刻の連続である。 たとえば在来は、苦痛の時には激しい悲鳴をあげてい・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
・・・ それは外郭に連なる山々によって平野から切り離された、急峻な山の斜面である。幾世紀を経て来たかわからない老樹たちは、金剛不壊という言葉に似つかわしいほどなどつしりとした、迷いのない、壮大な力強さをもって、天を目ざして直立している。そうし・・・ 和辻哲郎 「樹の根」
出典:青空文庫