・・・ 作家が評家に呈出する答案はかくのごとく多種多面である。評家は中学の教師のごとく部門をわけて採点するかまたは一人で物理、数学、地理、歴史の智識を兼ねなければならぬ。今の評家は後者である。いやしくも評家であって、専門の分岐せぬ今の世に立つ・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・ かように意識の内容が分化して来ると、内容の連続も多種多様になるから、前に申した理想、すなわちいかなる意識の連続をもって自己の生命を構成しようかと云う選択の区域も大分自由になります。ある人は比較的知の作用のみを働かす意識の連続を得て生存・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・からの脱却、伝統的な主情性の克服の可能も、文学が人民のリアリスティックな発展の可能性とそのための多種多様な行為とともにあってはじめて見出されるのである、と。この場合、国際的なプロレタリア文学運動が、二十世紀の世界文学の一発展としてもたらした・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」
・・・ トルストイの性慾論より「結婚以前には多種多様の方法に依って、神及人類の為に直接尽すことが出来ても、結婚は活動範囲を制限して、独り神及び人類の本来の召使である子供の教養を切に要求させるにとどまる。」 斯う云う結婚生活・・・ 宮本百合子 「黄銅時代の為」
・・・今日の少年少女たちの日常のなかには一つのスウィッチの形で出現している多種多様な働きの電気というものを、人間生活にとりいれ、こわいものから便利なものにかえて来た道が、終始一貫して全く実験の立場からもたらされ導かれたものであることを、コフマンは・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・けれども、ロマン・ロランの女性たちには、一種独得のところがある。多種多様のあらわれかたをしている「ジャン・クリストフ」の世界の女性たちのある資質が、そのみずみずしさ、真摯さ、溌溂さで「魅せられたる魂」のアンネットやシルヴィにまで伸び育ってゆ・・・ 宮本百合子 「彼女たち・そしてわたしたち」
・・・ こんにちわたしたちが生きているために、食うこと、住むことの問題に基礎をおいて理性に負うている苦しみ、人間心情にうけている痛みは、多種多様であり、どんなファウスト博士の試験管の中にも、「純潔人間」は存在しない。わたしたちにわかっているた・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・芸術家は現実を見とおすことで、現実のあれこれに動かされつつなおそれに追いまくられず、それを人間の多種多様な生の姿として精神のうちに統率する力をもっている。そのような現実の只中に真直に立っている精神の力が、悲劇のうちにもそれが人間生活の真実に・・・ 宮本百合子 「幸福の感覚」
・・・新聞 二〇八種 一、〇〇四千七五〇夕刊 六種 三二〇千〇〇〇 帝政ロシアでは最もひどくやっつけられていたロシア内の各少数民族と農民が、今日は解放され、こんな多種の新聞をもっているのだ。 ところ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・それがおいおい発達して生産手段が複雑になり、社会生活が多様にかつ高まって来るにつれ、ついに今日見るような多種多様な専門に分化した文化をもつにいたっている訳である。 文化の問題についていう時、ある種の学者は、文化の地理的性質ということを非・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
出典:青空文庫