・・・「大日おおひるめむち! 大日貴! 大日貴!」「新しい神なぞはおりません。新しい神なぞはおりません。」「あなたに逆うものは亡びます。」「御覧なさい。闇が消え失せるのを。」「見渡す限り、あなたの山、あなたの森、あなたの川、あ・・・ 芥川竜之介 「神神の微笑」
・・・ その年は八月中旬、近江、越前の国境に凄じい山嘯の洪水があって、いつも敦賀――其処から汽車が通じていた――へ行く順路の、春日野峠を越えて、大良、大日枝、山岨を断崕の海に沿う新道は、崖くずれのために、全く道の塞った事は、もう金沢を立つ時か・・・ 泉鏡花 「栃の実」
・・・小角は道士羽客の流にも大日本史などでは扱われているが、小角の事はすべて小角死して二百年ばかりになって聖宝が出た頃からいろいろ取囃されたもので、その間に二百年の空隙があるから、聖宝の偉大なことやその道としたところはおよそ認められるが、小角が如・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・ 藍子は、一寸躊躇していたが、元気よく駆けるように大日坂を下り、石切橋から電車に乗った。 尚子の処に、思いがけず清田はつ子、森鈴子という連中が来ていた。明治末葉の、漠然婦人運動者と呼ばれている人々であった。 黒い紋羽二重の被布に・・・ 宮本百合子 「帆」
出典:青空文庫