・・・ 自分の入って来たのを見て、いきなり一人の水兵が水雷長万歳と叫ぶと、そこらにいた者一斉に立って自分を取り巻き、かの大杯を指しつけた。自分はその一二を受けながら、シナの水兵は今時分定めて旅順や威海衛で大へこみにへこんでいるだろう、一つ彼奴・・・ 国木田独歩 「遺言」
・・・ たぶん自分の中学時代、それもよほど後のほうかと思うころに、父が東京の友人に頼んで「大杯」という種類の楓の苗木をたくさんに取り寄せ、それを邸内のあちこちに植えつけた。自分が高等学校入学とともに郷里を離れ、そうして夏休みに帰省して見るたび・・・ 寺田寅彦 「庭の追憶」
・・・「無論さ。大杯の酒に大塊の肉があれば、能事畢るね。これからまた遼陽へ帰って、会社のお役人を遣らなくてはならない。実はそんな事はよして南清の方へ行きたいのだが、人生意の如くならずだ。」「君は無邪気だよ。あの驢馬を貰った時の、君の喜びよ・・・ 森鴎外 「鼠坂」
出典:青空文庫