・・・ひっきょう、学校の教育不完全にして徳育を忘れたるの罪なりとて、専ら道徳の旨を奨励するその方便として、周公孔子の道を説き、漢土聖人の教をもって徳育の根本に立てて、一切の人事を制御せんとするものの如し。 我が輩は論者の言を聞き、その憂うると・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・それでたまたま珍らしい飲食商人が這入って来ると、余は奨励のためにそれを買うてやりたくなる。今朝は珍らしく納豆売りが来たので、邸内の人はあちらからもこちらからも納豆を買うて居る声が聞える。余もそれを食いたいというのではないが少し買わせた。虚子・・・ 正岡子規 「九月十四日の朝」
・・・前業は養鶏を奨励すること、本業はそれを捕ること、後業はそれを喰べることと斯うである。 前業の養鶏奨励の方法は、だんだん詳しく述べるつもりであるが、まあその模範として一例を示そう。先頃私が茨窪の松林を散歩していると、向うから一人の黒い小倉・・・ 宮沢賢治 「茨海小学校」
・・・ ここにわたしたちの生活に即した考えのいとぐちがあり政府が奨励する町の踊りについての民衆の声があったわけです。みんなが考えたことをみんなが表現する自信さえもったら、社会の進歩のための輿論は活発になります。私たち自身の豊富さもまします。・・・ 宮本百合子 「朝の話」
・・・近頃早婚と多産とが奨励されはじめている。それはなんとなく賑やかで楽しげな声である。だが、それを実践したい心は溢れているとして、全体の人数の何割の若い職業婦人たちが、それぞれの勤め先で結婚と分娩とを公然の条件として認められているであろうか。共・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
・・・これは一面子供多産の奨励のようなものだ」といっているのである。読売新聞の時評はいち早くこの卓見に同調して、労働者に家族手当を出すので子供を生む。家族手当をやめよ、賃銀を労働者一人の能率払いにせよ、と書いている。『中央公論』は、仄聞すると・・・ 宮本百合子 「鬼畜の言葉」
この頃は、結婚の問題がめだっている。この一年ばかりのうちに、私たち女性の前には早婚奨励、子宝奨励、健全結婚への資金貸与というような現象がかさなりあってあらわれてきている。そして、どこか性急な調子をもったその現象は、傍にはっ・・・ 宮本百合子 「結婚論の性格」
・・・義的リアリズムは、度のくるった近眼鏡のように一定の距離をもって遠くにあるものを目まいのするほど近づけて見せる方法でもないであろうし、魔女の箒のように、一定の観念にまたがって、歴史の現実をとび越すすべを奨励するものでもないはずである。社会主義・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・だから五年後に家康が政権を握ったときには、彼は、秀吉が征明の役を起こした時と同じ年齢であったが、秀吉とは全然逆に、学問の奨励をもっておのれの時代を始めたのである。慶長四年の『孔子家語』、『六韜三略』の印行を初めとして、その後連年、『貞観政要・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・ 現代の道徳は霊的根底を超越して偽善を奨励す。冷ややけき顔に自ら「理性の権化」と銘する人はこの偽善を社会に強い、この虚礼をもって人生を清くせんとす。人生は厳格である。人間の向上はまじめなる努力を要する。仮面に精髄を抜き去ったる肉骸を覆う・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫