・・・ものと妥協するのである。学者はこの椎の葉にさまざまの美名を与えるであろう。が、無遠慮に手に取って見れば、椎の葉はいつも椎の葉である。 椎の葉の椎の葉たるを歎ずるのは椎の葉の笥たるを主張するよりも確かに尊敬に価している。しかし椎の葉の椎の・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・いわゆる社会政策と称せられる施設、温情主義、妥協主義の実施などはすべてそれである。これらの修正策が施された後に、社会主義的思想ははじめて実現されるわけになるのだ。それならば社会政策的の施設する未だ行なわれようとはしなかった時代に、何を苦しん・・・ 有島武郎 「広津氏に答う」
・・・第四階級の人々は文化的にある程度までブルジョアジーに妥協し、その妥協の収穫物を武器としてブルジョアジーに当たっている時である。僕の言葉でいうならば第四階級と現在の支配階級との私生児が、一方の親を倒そうとしている時代である。そして一方の親が倒・・・ 有島武郎 「片信」
・・・ 魚住氏はさらに同じ誤謬から、自然主義者のある人々がかつてその主義と国家主義との間にある妥協を試みたのを見て、「不徹底」だと咎めている。私は今論者の心持だけは充分了解することができる。しかしすでに国家が今日まで我々の敵ではなかった以上、・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・ 私を、現実の苦しみから救うものは、逃避でもなく、妥協でもなく、また終わりなき戦いでもなく、全く、創造の熱愛があるからです。私は、創造のために、いかなる戦いも辞せない。 私達が、この現実に於て、あらゆる方面や、形に於て戦うということ・・・ 小川未明 「『小さな草と太陽』序」
・・・徒らに生活に妥協して、自ら深く生に徹して行こうとする勇気を欠いてはいないか。容易なだらけ切った気持ちで有るが儘の世相の外貌を描いただけで、尚お且つ現実に徹した積りでいるなど、真に飽きれ果てた話だ。こんなものが何んで現実主義といえよう。 ・・・ 小川未明 「囚われたる現文壇」
・・・社会の一般は、常に、享楽を要求しつゝあるからという理由で、それと妥協せんとする者はあるまい。そして、ブルジョア作家は、なおこれ等の事実から、いかに、人生というものの物憂いか、また、はかないものであるかを、また人間の醜いものであるかを語ろうと・・・ 小川未明 「何を作品に求むべきか」
・・・ 芸術の目的が人間の理想の追求であり、そして、この芸術的感激が現実に対する不充、反抗に他ならんとしたら、そこに、妥協されない何ものかゞなくてはならぬ。 社会的であること、言い換えれば人生的であること、個人的であることゝは、その目的に・・・ 小川未明 「正に芸術の試煉期」
・・・孤行高しとすることこそ、芸術家の面目でなければならぬ、衆俗に妥協し、資本力の前に膝を屈した徒の如きは、表面いかに、真摯を装うことありとも、冷徹たる批評眼の前に、真相を曝らし、虚飾を剥がれずには置かれぬだろう。 一時の世評によって、其等の・・・ 小川未明 「ラスキンの言葉」
・・・恋愛でさえも媒介結婚で満足し、現実の便宜で妥協するようなことでは、その他の人生の尊いものもどう取り扱われるかしれている。たとい田の畔での農夫と農婦との野合からはいった結婚でさえも、仲人結婚より勝っている。こんな人生の大道を真直ぐに歩まないの・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
出典:青空文庫