・・・ 擡頭しはじめた町人が、金の力にまかせて、贅沢な服装をし、妻女に競争でキラをきそわせたことは西鶴の風俗描写のうちにまざまざとあげられている。幕府はどんなに気をもんで、政治的な意味でぜいたく禁止令を出したろう。それは、町人たちによって、き・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・ 益軒の時代は、さっき触れたような商人擡頭の時代であって、歌舞、音曲、芝居なども流行をきわめ、上方あたりの成金の妻女は、あらゆる贅沢と放埒にふけった例もあった。西鶴の小説が語っているような有様であったから、近松の浄瑠璃が描き出しているよ・・・ 宮本百合子 「三つの「女大学」」
・・・ 又七郎は平生阿部弥一右衛門が一家と心安くして、主人同志はもとより、妻女までも互いに往来していた。中にも弥一右衛門の二男弥五兵衛は鎗が得意で、又七郎も同じ技を嗜むところから、親しい中で広言をし合って、「お手前が上手でもそれがしにはかなう・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫