・・・ 某はこれ等の事を見聞候につけ、いかにも羨ましく技癢に堪えず候えども、江戸詰御留守居の御用残りおり、他人には始末相成りがたく、空しく月日の立つに任せ候。然るところ松向寺殿御遺骸は八代なる泰勝院にて荼だびせられしに、御遺言により、去年正月・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
・・・夫を持っていて色をしようと云う女に、手紙の始末ぐらいが出来ないものでございましょうか。あなたのお考えなさるように、わたくしがやたらむしょうに手紙を落しなんかしようものなら、わたくしもう疾っくに頸の骨を折ってしまうはずではございますまいか。・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「最終の午後」
出典:青空文庫