・・・ 輿論 輿論は常に私刑であり、私刑は又常に娯楽である。たといピストルを用うる代りに新聞の記事を用いたとしても。 又 輿論の存在に価する理由は唯輿論を蹂躙する興味を与えることばかりである。 ・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・人生上から文芸を軽くみて、心の向きしだいに興を呼んで、一時の娯楽のため、製作をこころみるという、君のようなやり方をあえて非難するまで行った。宿についても飲むも食うも気が進まず、新聞を見また用意の本など出してみても、異様に神経が興奮していて、・・・ 伊藤左千夫 「去年」
・・・ず、徒に茶器を骨董的に弄ぶものはあっても、真に茶を楽む人の少ないは実に残念でならぬ、上流社会腐敗の声は、何時になったらば消えるであろうか、金銭を弄び下等の淫楽に耽るの外、被服頭髪の流行等極めて浅薄なる娯楽に目も又足らざるの観あるは、誠に嘆し・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・かつ、井侯は団十郎をお伴につれていても芸術に対する理解があったは、それまで匹夫匹婦の娯楽であって士太夫の見るまじきものと侮蔑んだ河原者の芸術を陛下の御覧に供したのでも明かである。今から見れば何でもないように思うが、四十年前俳優がマダ小屋者と・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・一つは、太平時代の産物であり、装飾であり、娯楽であり、後者は、闘争的精神から生れた叫びである。純然行路を異にするのは、それがためであります。 階級闘争は必然であり、すべての人間的運動は、資本主義的文明の破壊からはじまる。もはや、それに疑・・・ 小川未明 「芸術は革命的精神に醗酵す」
・・・勿論その中には、郷土的色彩のあるものもあるけれど、要するにそれ等の認識、発見に目的があるのでなくして、一般の娯楽に供せんとする発意に外ならない。いやしくも、それ等の芸術に依拠して、真の美感を与えよく芸術の使命を果すものありとすれば、それは、・・・ 小川未明 「純情主義を想う」
・・・そして、彼等は、遊びの上にも、娯楽の上にも、知識との調和を求めています。それは極めて自然なことであります。 空想はいかに自由であるといっても、現実に立脚するものです。北方の土地に生れた子供達には、南国の自然や、生活は、たとい書物で見・・・ 小川未明 「新童話論」
・・・殊に、文芸の必要なるべきは、少年期の間であって、すでに成人に達すれば、娯楽として文芸を求むるにすぎません。しからざれば、趣味としてにとゞまります。世間に出るに及んで、生活の規矩を政治、経済に求むるが、むしろ当然だからです。 さらば、何故・・・ 小川未明 「近頃感じたこと」
・・・ そして話はその娯楽場の驢馬の話になりました。それは子供を乗せて柵を回る驢馬で、よく馴れていて、子供が乗るとひとりで一周して帰って来るのだといいます。私はその動物を可愛いものに思いました。 ところがそのなかの一匹が途中で立留ったと云・・・ 梶井基次郎 「橡の花」
・・・に角立てゝ盗んだ者をせんさくしてまわったり、霜月の大師詣りを、大切な行かねばならぬことのようにして詣るのをいゝ年をしてまるで子供のようにと思って眺めていたが、私にも年寄りの気持がいくらかわかってきた。娯楽もなし、生活の変化もなし、それで一本・・・ 黒島伝治 「四季とその折々」
出典:青空文庫