・・・ 小町 まあ、あんな嬉しがらせばっかり! あなたこそ黄泉には似合わない、美しいかたではありませんか? 使 こんな色の黒い男がですか? 小町 黒い方が立派ですよ。男らしい気がしますもの。 使 しかしこの耳は気味が悪いでしょう。・・・ 芥川竜之介 「二人小町」
・・・ さらに気をまわせば、吉弥は僕のことについていい加減のうそを並べ、うすのろだとか二本棒だとか、焼き餅やきだとかいう嬉しがらせを言って、青木の機嫌を取っているのではないかとも思われた。どうせ吉弥が僕との関係を正直にうち明かすはずはないが、・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・ とおげんは笑って、あまりに突然な姪の嬉しがらせを信じなかった。 しかし、お玉が迎えに来たことは、どうやら本当らしかった。悩ましいおげんの眼には、何処までが待ちわびた自分を本当に迎えに来てくれたもので、何処までが夢の中に消えていくよ・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
出典:青空文庫