・・・人の道、天の理、心の自律――近くは人間学的倫理学の強調するような「世の中の道」にまでひろがるところの一般の倫理的なるものへの関心と心得とはカルチュアの中心題目といわねばならぬ。人生の事象をよろず善悪のひろがりから眺める態度、これこそ人格とい・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・ 自分の少青年時代に受けた文学的の教育と言えば、これくらいのことしか思い出されない。そうして、その後三十余年の間に時おり手に触れた文学書の、数だけはあるいは相当にあるかもしれないが、自分の頭に深い強い印象を焼き付けたものと言ってはきわめ・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ 日本はその地理的の位置がきわめて特殊であるために国際的にも特殊な関係が生じいろいろな仮想敵国に対する特殊な防備の必要を生じると同様に、気象学的地球物理学的にもまたきわめて特殊な環境の支配を受けているために、その結果として特殊な天変地異・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・ この幻術の秘訣はどこにあるかと言えば、それは象徴の暗示によって読者の連想の活動を刺激するという修辞学的の方法によるほかはない。この方法が西欧で自覚的にもっぱら行なわれこれが本来の詩というものの本質であるとして高調されるに至ったのは比較・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・とは普通幾何学的に連続し、甲の描く曲線は乙の曲線と必然的単義的に連結している。これに反して連句中の一句とその付け句との「面」の関係は、複雑に連絡した一種のリーマン的表面の各葉の間の関係のようなものである。句の外観上の表面に現われた甲の曲線か・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・頭に立っていたプロレタリア作家たちが、続々とあとへすさって来て、林氏のように自身の文学の本質を我から切々と抹殺し、或は西鶴を見直して、散文精神を唱え出した武田麟太郎氏のように一般人間性、性格、現実の文学的反映を云々するようになったことは、一・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ところで日常身辺の事実が示しているのは単に物理学的現象のみではなく、化学的・生理学的・動植物学的等の諸現象の複雑な絡み合いである。 寺田さんはそういう現象のうちにも常に閑却された重大な問題を見出していった。が更にいっそう具体的な日常の現・・・ 和辻哲郎 「寺田寅彦」
出典:青空文庫