・・・書生は才力に誇っていたと見え、滔々と古今の学芸を論じた。が、益軒は一言も加えず、静かに傾聴するばかりだった。その内に船は岸に泊した。船中の客は別れるのに臨んで姓名を告げるのを例としていた。書生は始めて益軒を知り、この一代の大儒の前に忸怩とし・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
ただ仰向けに倒れなかったばかりだったそうである、松村信也氏――こう真面目に名のったのでは、この話の模様だと、御当人少々極りが悪いかも知れない。信也氏は東――新聞、学芸部の記者である。 何しろ……胸さきの苦しさに、ほとん・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・その青春時代学芸と教養とに発足する時期において、倫理的要求が旺盛であるか否かということはその人の一生の人格の質と品等とを決定する重大な契機である。倫理的なるものに反抗し、否定するアンチモラールはまだいい。それはなお倫理的関心の領域にいるから・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・そこで何か随筆を書くよう学芸のものに頼んだところ大乗気で却って向うから是非書かしてくれということだ。新人の立場から、といったようなものがいい由。七、八枚。二日か三日にわけて掲載。アプトデートのテエマで書いてくれ。期日は、明後日正午まで。稿料・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・書生劇みたいな粗雑なところもある。学芸会みたいな稚拙なところもある。けれども、なんだか、ムキである。あの映画には、いままでの日本の映画に無かった清潔な新しさがあった。いやらしい「芸術的」な装飾をつい失念したから、かえって成功しちゃったのだ。・・・ 太宰治 「芸術ぎらい」
・・・駅には、生徒が二人、迎えに来ていました。学芸部の委員なのかも知れません。私たちは駅から旅館まで歩きました。何丁くらいあったのでしょう。私は、ご存じのように距離の測定が下手なので、何丁程とも申し上げられませんが、なんでも二十分ちかく歩きました・・・ 太宰治 「みみずく通信」
・・・ 私は一般平均から見ても、また個別的に見ても、学芸にかけての日本人の頭が少しでも欧米文化国民のそれに劣らないものだと信じて疑わないものである。しかし今までのところでまだ学芸方面において世界第一人者として、少なくとも公認されたものの数のは・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ 二 学芸の純粋な進展に対して社会的の拘束が与える障害について不満の意を洩らすのを聞かされた事も一度や二度ではなかったように記憶する。例えば美術や音楽の方面においていわゆる官学派の民間派に対する圧迫といったよ・・・ 寺田寅彦 「子規の追憶」
・・・ただ、学芸にたずさわる団体は時々何かしらかなり根本的な革新を企てて風通しをよくし、黴の生えないようにする必要があるという至極平凡なことを、やや強く表現しようとしただけのことである。実際、少々拙ない改新でも完全なる習俗に優ることがしばしばある・・・ 寺田寅彦 「二科展院展急行瞥見記」
・・・ 政治経済教育宗教学芸産業軍事その他ありとあらゆる方面にわたる現実の正確な知識を与え、一般の輿望に基づいて各当局の手の回らぬところを研究し補助して国家社会のあらゆる機関の円滑な融合を計るがために、こういう特別な一大組織を設けるという事は・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
出典:青空文庫