・・・この格闘に於いては、鴎外の旗色はあまり芳しくなく、もっぱら守勢であったように見えるが、しかし、庭に落ちて左手に傷を負うてからは「僕には、此時始めて攻勢を取ろうという考が出た。」と書いてあるから、凄い。人がとめなければ、よっぽどやったに違いな・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・しかし第三回あたりからは、自分の予想に反して、ベーアはだいたいにおいて常に守勢を維持してばかりいるように見えた。カルネラはこれに対して不断に攻勢を取って、単調な攻撃をほぼ一様なテンポで繰り返しているように思われた。なんとなく少しあせりぎみで・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・つれて、男は妻をますます家政の守りとして求め、その求めてゆく心にいつしか日本の社会の古い古い陰翳が落ちて、新しい世代の賢さから生れる家政上手に信頼をつなごうとするより、そのことではむしろ旧套にたよった守勢をとる。 両性の向上ということか・・・ 宮本百合子 「異性の友情」
・・・文学はこれからうちつづく何年かの間、本質的には苦難を経、守勢をとり、萎靡した形をとるであろう。文学におけるヒューマニズムの問題、能動精神の提唱をした一部の作家が、今日ヒューメンなる何を主張し得ているかということについて、その無力化された有様・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 現在既にそうなって来ているのだが、これからは益々、日常生活の中にある美を守勢で擁護して行こうとしても消極に陥るばかりだと思う。生活の中に喪われてゆく従来の美しさへの郷愁で、手工業的なものの趣味に愛着する傾きも、今日の社会の一部にある美・・・ 宮本百合子 「生活のなかにある美について」
出典:青空文庫