・・・ 従来、本塾出身の学士が、善く人事に処して迂闊ならずとのことは、つねに世に称せらるるところなれども、吾々はなおこれに安んずるを得ず。よって本月初旬より、内外の社員教員相ともに談じたることもあれば、自今都合次第にしたがい、教場また教則に少・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾学生諸氏に告ぐ」
・・・ゆえに今の儒者も道徳の一味に安んずることなくして、勉て智学に志し、智徳その平均を得て、はじめて四書五経をも講論せしむべきなり。 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・ 然りといえども、よく事理を詳し、そのよるところ、その安んずるところを視察せば、人おのおのその才に所長あり、その志に所好あり、所好は必ず長じ、所長は必ず好む。今天下の士君子、もっぱら世事に鞅掌し、干城の業を事とするも、あるいは止むをえざ・・・ 福沢諭吉 「中元祝酒の記」
・・・けだし文明の社会にはかつて聞かざる所の醜語にてありながら、君らが常にこれを語りて憚る所なきは、日本の事は外人の知らざる所なりとして、強いて自ら安んずることならんなれども、前節にいえる如く、今日の日本は世界に対するの日本なり、いやしくも国を国・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・ひ学ばや、さらば常の心の汚たるを洗ひ浮世の外の月花を友とせむにつきつきしかるべしかし、かくいふは参議正四位上大蔵大輔源朝臣慶永元治二年衣更著末のむゆか、館に帰りてしるす 曙覧が清貧に処して独り安んずるの様、はた春岳が高貴の身をもって・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・「小諸へ行ってから更に大いに心を安んずることが出来た。」と書いている。落梅集に「枝うちかはす梅と梅」「めぐり逢ふ君やいくたび」「あゝさなり君の如くに」「思ひより思ひをたどり」その他少くない愛の詩が収録されていることも、当時のそのような事情と・・・ 宮本百合子 「藤村の文学にうつる自然」
・・・しかし同じ道においてすでにはるかに高い所を油絵が歩いているとすれば、せっかくの新生面も安んずるに足りない。氏がこの道の上をさらに遠く高く進んで行かれる事は、我々の楽しい期待の一つである。 真道黎明氏の『春日山』は川端氏の画と同じく写実の・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
・・・がこの場合、美の陶酔に自己の安んずる場所を認めるとすれば、それは右の諸種の道と異なった一つの特殊な道である。ここでは美への関心が善への関心の上に置かれる。そうしてあの苦しみが強ければ強いほど、この安心の方法もまたその意味を深めるのである。・・・ 和辻哲郎 「享楽人」
出典:青空文庫