・・・……羽織は、まだしも、世の中一般に、頭に被るものと極った麦藁の、安値なのではあるが夏帽子を、居かわり立直る客が蹴散らし、踏挫ぎそうにする…… また幕間で、人の起居は忙しくなるし、あいにく通筋の板敷に席を取ったのだから堪らない。膝の上にの・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・先方の事情にすぐ安値な同情を寄せて、気の毒だ、かわいそうだと思う。それが動機で普通道徳の道を歩んでいる場合も多い。そしてこれが本当の道徳だとも思った。しかしだんだん種々の世故に遭遇するとともに、翻って考えると、その同情も、あらゆる意味で自分・・・ 島村抱月 「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」
・・・の英訳の安値版がころがっていたりする。この露店の所へ来ると自分の頭が急に混雑してあまり愉快でない一種の圧迫を感じる。そして自分の日曜日の世界とはあまりにかけ離れた争闘の世界をのぞいて見るような気がして、つい落ち着いて見る気になれない。また実・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
出典:青空文庫