・・・この間町じゅうで大評判をした、あの禽獣のような悪行を働いた罪人が、きょう法律の宣告に依って、社会の安寧のために処刑になるのを、見分しに行く市の名誉職十二人の随一たる己様だぞ。こう思うと、またある特殊の物、ある暗黒なる大威力が我身の内に宿って・・・ 著:アルチバシェッフミハイル・ペトローヴィチ 訳:森鴎外 「罪人」
・・・木戸木戸の権威を保ち、町の騒動や危険事故を防いで安寧を得せしむる必要上から、警察官的権能をもそれに持たせた。民事訴訟の紛紜、及び余り重大では無い、武士と武士との間に起ったので無い刑事の裁断の権能をもそれに持たせた。公辺からの租税夫役等の賦課・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・かくして民族の安寧と幸福を保全することが為政者の最も重要な仕事の少なくも一部分であったのである。 この重要な仕事に連関して天文や気象に関する学問の胚芽のようなものが古い昔にすでに現われはじめ、また巫呪占筮の魔術からもいろいろな自然科学の・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
「非常時」というなんとなく不気味なしかしはっきりした意味のわかりにくい言葉がはやりだしたのはいつごろからであったか思い出せないが、ただ近来何かしら日本全国土の安寧を脅かす黒雲のようなものが遠い水平線の向こう側からこっそりのぞいているらし・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・厳父の厳訓に服することは慈母の慈愛に甘えるのと同等にわれわれの生活の安寧を保証するために必要なことである。 人間の力で自然を克服せんとする努力が西洋における科学の発達を促した。何ゆえに東洋の文化国日本にどうしてそれと同じような科学が同じ・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・ 文明を誇る日本帝国には国民の安寧を脅かす各種の災害に対して、それぞれ専門の研究所を設けている。健康保全に関するものでは伝染病研究所や癌研究所のようなもの、それから衛生試験所とか栄養研究所のようなものもある。地震に関しては大学地震研究所・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・むしろ国民社会一般の幸福安寧に資すべき調査研究報告機関のようなものになってしまう。こういうものは全国にただ一つあって、各地には適当に支局を分配して、中央を通じて相連絡すればよい。 政治経済教育宗教学芸産業軍事その他ありとあらゆる方面にわ・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・政事は目下の安寧を保護して学者の業を安からしめ、学問は人を教育して政事家をも陶冶し出だす。双方ともに毫も軽重あることなしとの裁判にて、双方に不平なかるべし。 一国文明のために学問の貴重なること、すでに明らかなれば、その学問社会の人を尊敬・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・政治・経済、もとよりその学を非なりというに非ざれども、これを読みて世の安寧を助くると、これを妨ぐるとは、その人に存するのみ。 余輩の所見にては、弱冠の生徒にしてこれらの学につくは、なお早しといわざるをえず。その危険は小児をして利刀を弄せ・・・ 福沢諭吉 「経世の学、また講究すべし」
・・・ただ我が輩の目的とするところは学問の進歩と社会の安寧とよりほかならず。この目的を達せんとするには、まずこの政教の二者を分離して各独立の地位を保たしめ、たがいに相近づかずして、はるかに相助け、もって一国全体の力を永遠に養うにあるのみ。諸外国に・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
出典:青空文庫