・・・当時は水泳協会も芦の茂った中洲から安田の屋敷前へ移っていた。僕はそこへ二、三人の同級の友達と通って行った。清水昌彦もその一人だった。「僕は誰にもわかるまいと思って水の中でウンコをしたら、すぐに浮いたんでびっくりしてしまった。ウンコは水よ・・・ 芥川竜之介 「追憶」
・・・絵の方だと横山、安田氏などですか。私も知合ではありますが、たとえば、その人たちにも話をしません。芥川さんなどは、話上手で、聞上手で、痩せていても懐中が広いから、嬉しそうに聞いてはくれるでしょうが、苦笑ものだろうと思うから、それにさえ遠慮をし・・・ 泉鏡花 「半島一奇抄」
・・・素人目にはわが大学の安田講堂よりもかえって格好がいいように思われる。デテイルがないだけに全体の輪郭だけに意匠が集注されるためかもしれない。 インパラという動物の跳躍も見物である。十数尺の高さを水平距離で四十尺も一飛びにとぶのである。何か・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・間もなく菊尾は帰ったが、安田にも学校にも居ませんと云うので、御ばあさんまたブツブツ。そのうち定勝さんが帰った。着物の寸法を取らねばならぬに何処へ行っていたか。この忙しいのにどんなに世話を焼かすか知れぬと頭ごなし。帰って来たとて宅に片時居るで・・・ 寺田寅彦 「高知がえり」
・・・ボースン。奴あ死んでるぜ」 彼は監獄から出たての放免囚見たいに、青くなって云った。「何だって! 死んだ? どいつが死んだ?」「冗談じゃないぜ。ボースン。安田が死んでるんだぜ」「死んだ程、俺も酔っ払って見てえや、放っとけ! そ・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・「それがね、あの河崎屋のじいさま、ほんにいやなおやじだよ、けさ吉さに、もうけんかはやめたらよかッぺ、隣の安田でも馬鹿だちゅうて笑ってるなんぞといいましたんだって。とんだ恨でも買ったらなじょにしてくれるんだか。――今晩だけお邪魔でもとめて・・・ 宮本百合子 「田舎風なヒューモレスク」
・・・医学博士の安田徳太郎氏は六七十円の共稼ぎで、女が呼吸器を傷う率が高いことをいっていられた。今日の社会では女が働いてかえってきて、やっぱり一人前に炊事、洗濯をやらなければならない。経済的にもそうしなければやってゆけない。それでも困るし、と共稼・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
・・・三井、三菱、住友、安田の四大財閥が解消せられることになった。日本を破壊に導き、七千万の人口を限りない苦痛に陥入れている財閥が、解体せられるということは私達の心に、何となしこの社会も、公平に向いつつあるという希望を与えた。総ての新聞が、この処・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫