・・・そして丹泉は意気安閑として、過ぐる日の礼を述べた後、「御秘蔵のと同じような白定鼎をそれがしも手に入れました」といった。唐太常は吃驚した。天下一品と誇っていたものが他所にもあったというのだからである。で、「それならばその品を視せて下さい」とい・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・釣も釣でおもしろいが、自分はその平野の中の緩い流れの附近の、平凡といえば平凡だが、何ら特異のことのない和易安閑たる景色を好もしく感じて、そうして自然に抱かれて幾時間を過すのを、東京のがやがやした綺羅びやかな境界に神経を消耗させながら享受する・・・ 幸田露伴 「蘆声」
・・・夫が妻の辛苦を余処に見て安閑たるこそ人倫の罪にして恥ず可きのみならず、其表面を装うが如きは勇気なき痴漢と言う可し。一 女子少しく成長すれば男子に等しく体育を専一とし、怪我せぬ限りは荒き事をも許して遊戯せしむ可し。娘の子なるゆえにとて自宅・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・使者 男でも女でも、安閑としているものはありません。列を作って、地道な蟻のように、廃墟の地ならしにとりかかりました。それにこの神々が、人間の精神まで殺し終おせたように云われたのはまるで事実とは違う間違いですね。学舎の壁は火で煤け、天井は・・・ 宮本百合子 「対話」
・・・は、第三回全国大会に各国からのメッセージをうけとっただけで安閑としてはいられない。官憲が「ナップ」の国際的同盟加入に関して、その討議さえ禁止した事実は、そのままのこってわれわれの将来の活動を現実に掣肘する。 すでに実質的には国際的に拡大・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・にある辟寒地で、二万人を入れるカジノの中に、世界の遊民が、一杯の珈琲に安閑として居るのを見て、アリストートルと希臘文明に顕れた幸福主義の結果だと論じたという事は、私に重大な反省を与える。幸福主義というのは、何を意味するものなのか、人間の幸福・・・ 宮本百合子 「無題(二)」
出典:青空文庫