・・・ 彼等はまず京橋界隈の旅籠に宿を定めると、翌日からすぐに例のごとく、敵の所在を窺い始めた。するとそろそろ秋が立つ頃になって、やはり松平家の侍に不伝流の指南をしている、恩地小左衛門と云う侍の屋敷に、兵衛らしい侍のかくまわれている事が明かに・・・ 芥川竜之介 「或敵打の話」
・・・ 僕は一週間ばかりたった後、この国の法律の定めるところにより、「特別保護住民」としてチャックの隣に住むことになりました。僕の家は小さい割にいかにも瀟洒とできあがっていました。もちろんこの国の文明は我々人間の国の文明――少なくとも日本の文・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・ 銭を擲げては陰陽を定める、――それがちょうど六度続いた。お蓮はその穴銭の順序へ、心配そうな眼を注いでいた。「さて――と。」 擲銭が終った時、老人は巻紙を眺めたまま、しばらくはただ考えていた。「これは雷水解と云う卦でな、諸事・・・ 芥川竜之介 「奇怪な再会」
・・・あるいは先後を定めるのに迷って居ったのかもわかりませぬ。いや、突のはいったのは面に竹刀を受けるよりも先だったかもわかりませぬ。けれどもとにかく相打ちをした二人は四度目の睨み合いへはいりました。すると今度もしかけたのは数馬からでございました。・・・ 芥川竜之介 「三右衛門の罪」
・・・ここに至って僕は何処に立つべきであるかということを定める立場を選ばねばならぬ。僕は芸術家としてプロレタリアを代表する作品を製作するに適していない。だから当然消滅せねばならぬブルジョアの一人として、そうした覚悟をもってブルジョアに訴えることに・・・ 有島武郎 「片信」
・・・かに観音の加護を信ずるかというに、由来が執拗なる迷信に執えられた僕であれば、もとよりあるいは玄妙なる哲学的見地に立って、そこに立命の基礎を作り、またあるいは深奥なる宗教的見地に居って、そこに安心の臍を定めるという世にいわゆる学者、宗教家達と・・・ 泉鏡花 「おばけずきのいわれ少々と処女作」
・・・ 椿岳を応挙とか探幽とかいう巨匠と比較して芸術史上の位置を定めるは無用である。椿岳は画人として応挙や探幽と光を争うような巨人ではない。が、応挙や探幽の大作の全部を集めて捜しても決して発見されない椿岳独特の一線一画がある。椿岳には小さいな・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・ 人間は、意識的に、形態を定めることはできる。しかし、詩を作り、幸福を産むことはできない。強権下には、永遠に、人生の平和はあり得ないごとく。たゞ、純情に謙遜に、自然の意思に従って、真を見んとするところに、最も人生的なる、一切の創造はなさ・・・ 小川未明 「常に自然は語る」
・・・彼等の考え出すいろいろな革新は僕の周囲に死の機会を増し、彼等の説くところは僕を死に導き、または彼等の定める法律は僕に死を与えるのだ。」 織田君を殺したのは、お前じゃないか。 彼のこのたびの急逝は、彼の哀しい最後の抗議の詩であった。・・・ 太宰治 「織田君の死」
・・・いよいよ茶会の当日には、まず会主のお宅の玄関に於いて客たちが勢揃いして席順などを定めるのであるが、つねに静粛を旨とし、大声で雑談をはじめたり、または傍若無人の馬鹿笑いなどするのは、もっての他の事なのである。それから主人の迎附けがあって、その・・・ 太宰治 「不審庵」
出典:青空文庫