・・・ 故郷を捨てて東京に走り、その職業的有利さから東京に定住している作家、批評家が、両三日地方に出かけて、地方人に地方文学論に就て教えを垂れるという図は、ざらに見うけられたが、まず、色の黒い者に色の黒さを自覚させるために、わざわざ色白が狩り・・・ 織田作之助 「東京文壇に与う」
これは十年ほど前から単身都落ちして、或る片田舎に定住している老詩人が、所謂日本ルネサンスのとき到って脚光を浴び、その地方の教育会の招聘を受け、男女同権と題して試みたところの不思議な講演の速記録である。 ――もは・・・ 太宰治 「男女同権」
・・・ 右の如く満一箇年、きびしき摂生、左肺全快、大丈夫と、しんから自信つきしのち、東京近郊に定住。 なお、静養中の仕事は、読書と、原稿一日せいぜい二枚、限度。一、「朝の歌留多。」 一、「猶太の王。」 右の二作、・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
虫の中でも人間に評判のよくないものの随一は蛆である。「蛆虫めら」というのは最高度の軽侮を意味するエピセットである。これはかれらが腐肉や糞堆をその定住の楽土としているからであろう。形態的には蜂の子やまた蚕とも、それほどひどくちがって特別・・・ 寺田寅彦 「蛆の効用」
・・・つまり定住した人口が希薄なせいかもしれない。冬になればこのへんはほとんど無人境になるそうであるから。 そう言えば、すずめもいっこうに見かけない。御代田へんまで行くとたくさんいるそうである。このすずめの分布は五穀の分布でだいたいは説明がで・・・ 寺田寅彦 「軽井沢」
・・・ 運命の神様はこの年から三十余年後の今日までずっと自分を東京に定住させることにきめてしまった。明治四十二年から四年へかけて西洋へ行っている間だけがちょっと途切れてはいるが、心持ちの上では、この明治三十二年以後今日まではただひとつながりの・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・これは彼らが腐肉や糞堆をその定住の楽土としているからであろう。形態的にははちの子やまた蚕ともそれほどひどくちがって特別に先験的に憎むべく賤しむべき素質を具備しているわけではないのである。それどころか彼らが人間から軽侮される生活そのものが実は・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・また一方地形の影響で住民の定住性土着性が決定された結果は至るところの集落に鎮守の社を建てさせた。これも日本の特色である。 仏教が遠い土地から移植されてそれが土着し発育し持続したのはやはりその教義の含有するいろいろの因子が日本の風土に適応・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・しかるにわが国では、そういう古い伝統が、定住農耕生活の始まった弥生式文化の時代に、一度すっかりと振り捨てられたように見える。土器の形も、模様も、怪奇性を脱して非常に簡素になった。人物や動物の造形は、銅鐸や土器の表面に描かれた線描において現わ・・・ 和辻哲郎 「人物埴輪の眼」
出典:青空文庫