・・・を次の如く定義していた。「性的衝動に基づく男女間の愛情。すなわち、愛する異性と一体になろうとする特殊な性的愛。」 しかし、この定義はあいまいである。「愛する異性」とは、どんなものか。「愛する」という感情は、異性間に於いて、「恋愛」以・・・ 太宰治 「チャンス」
・・・子供の頭に考え浮べ得られる事を授けないでその代りに六かしい「定義」などをあてがう。具体的から抽象的に移る道を明けてやらないで、いきなり純粋な抽象的観念の理解を強いるのは無理である。それよりもこうすればうまく行ける。先ず一番の基礎的な事柄は教・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・という言葉の内容に関する定義の曖昧不鮮明から生まれることはもちろんである。 論理の連鎖のただ一つの輪をも取り失わないように、また混乱の中に部分と全体との関係を見失わないようにするためには、正確でかつ緻密な頭脳を要する。紛糾した可能性の岐・・・ 寺田寅彦 「科学者とあたま」
・・・これがおそらくまた逆に狂人というものを定義する一つの箇条であろう。 科学というものの内容も、よく考えてみるとやはり結局は「言葉」である。もっとも普通の世間の人の口にする科学という語の包括する漠然とした概念の中には、たとえばラジオとか飛行・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・上のほうを細かく裂いて、それを両側から平面に押し広げてその上に紙をはり、その紙は日月の部分蝕のような形にして、手もとに近いほうの割り竹を透かした、そういうものが、少なくもわれわれの子供時代からの団扇の定義のようなもので、それ以外のものは言わ・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・これらの概念と定義とが方則の云い表わしと切り離し難きはこのためなり。物理的自然現象を限定すべき条件等がすべてこれらの有限なる独立変数にて代表され得るや否やは別問題として、現在の物理学的科学の程度において、従来の方法によりて予報をなし得る範囲・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・しかしきょうこのごろ日本でいわゆるジャーナリズムという言葉には、これ以外にいろいろ複雑な意味や、余味や、後味や、またニュアンスやがあってなかなか簡単に定義しひと口に説明することはできないようである。人に聞いてみても人によっていろいろと多少は・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・人間は火を使用する動物なりという定義とほぼ同等に化粧する動物なりという定義もできるかもしれない。そうだとすると、男も鉄漿黒々とつけていた日本の昔は今よりももっと人間のこの特権を充分に発揮していたことになるかもしれない。 十五・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・話は余談に入るが、独逸の哲学者が概念を作って定義を作ったのであります。しかし巡査の概念として白い服を着てサーベルをさしているときめると一面には巡査が和服で兵児帯のこともあるから概念できめてしまうと窮屈になる。定義できめてしまっては世の中の事・・・ 夏目漱石 「教育と文芸」
・・・開化とはどんなものだと煎じつめて聞き糺されて見ると、今まで互に了解し得たとばかり考えていた言葉の意味が存外喰違っていたりあるいはもってのほかに漠然と曖昧であったりするのはよく有る事だから私はまず開化の定義からきめてかかりたいのです。 も・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
出典:青空文庫