・・・「きみはファゼーロって云うんだね。宛名をどう書いたらいいかねえ。」「ぼく、ひまを見付けて、おまえんうちへ行くよ。」「ひまって、今日でもいいよ。」「ぼく仕事があるんだ。」「今日は日曜じゃないか。」「いいえ、ぼくには日曜・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・ 四年間のキュリー夫人の活動がどんなに激しく広汎であったかということは、小さい娘であったエーヴの書く手紙の宛名が、一通毎に母の移動先へと数限りなく動いて書かれていることでも語られている。古い服の袖に赤十字の腕章をピンで止めたきりの普・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・この時分の三人の子供達あてのエハガキの英文宛名は、大きい字で Three little Froggs in Japanとかかれている。 書簡註。この写真が、あのコダックで・・・ 宮本百合子 「中條精一郎の「家信抄」まえがきおよび註」
・・・ 差出人は、同級会幹事の誰それとしてあり、宛名は、まぎれもない自分だ。けれども、内容がはっきり心に写らない。文句は、深田様がお産で去月何日死去されましたから、御悔みのしるしに何か皆で買ってあげたい、一円以上三円位まで御送り下さい、という・・・ 宮本百合子 「追想」
・・・ちょいと首を傾けたが、宛名には相違がないので、とにかく封を切った。手紙を引き出して披き掛けて、三右衛門は驚いた。中は白紙である。 はっと思ったとたんに、頭を強く打たれた。又驚く間もなく、白紙の上に血がたらたらと落ちた。背後から一刀浴せら・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫