・・・戦勝国の戦後の経営はどんなつまらない政治家にもできます、国威宣揚にともなう事業の発展はどんなつまらない実業家にもできます、難いのは戦敗国の戦後の経営であります、国運衰退のときにおける事業の発展であります。戦いに敗れて精神に敗れない民が真に偉・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・ お前はしきりに首をひねっていたが、間もなく、川那子メジシンの広告から全快写真の姿が消え、代って歴史上の英雄豪傑をはじめ、現代の政治家、実業家、文士、著名の俳優、芸者等、凡ゆる階級の代表的人物や、代表的時事問題の誹毀讒謗的文章があらわれ・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・そして、父親の出入先の芝の聖坂にある実業家のお邸へ行儀見習に遣られた。安子は十日許り窮屈な辛棒をしていたが、そこの令嬢が器量の悪い癖にぞろりと着飾って、自分をこき使うのが癪だとそろそろ肚の虫が動き出した矢先、ある夜、主人が安子に向って変な眼・・・ 織田作之助 「妖婦」
・・・左り側に彼が曾て雑誌の訪問記者として二三度お邪魔したことのある、実業家で、金持で、代議士の邸宅があった。「やはり先生避暑にでも行ってるのだろうが、何と云っても彼奴等はいゝ生活をしているな」彼は羨ましいような、また憎くもあるような、結局芸術と・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・、「実業雑誌の食い物」の諸君にありてはなんでもないでしょう、が、われわれごときにありては、でない、さようでない。正宗ホールでなければ飲めません。 感心にうまい酒を飲ませます。混成酒ばかり飲みます、この不愉快な東京にいなければならぬ不幸な・・・ 国木田独歩 「号外」
・・・その人生における職分が政治、科学、実業、芸術のいずれの方面に向かおうとも、彼の伝記が書かれるときには、あのワシントンのそれのように、小学校の教科書には「彼は偉大にして、善き人間なりき」と書かれるようにありたいものである。自分如きも、青春期、・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・相当の実業家らしいのですが、財産やら地位やらを一言も広告しないばかりか、名誉の家だって事さえ素振りにあらわさず、つつましく涼しく笑って暮しているのですからね。あんな家庭は、めったにあるもんじゃない。」「名誉の家?」 私は名誉の家の所・・・ 太宰治 「佳日」
・・・ G 美濃十郎は、実業家三村圭造の次女ひさと結婚した。帝国ホテルで華麗の披露宴を行った。その時の、新郎新婦の写真が、二、三の新聞に出ていた。十八歳の花嫁の姿は、月見草のように可憐であった。 ・・・ 太宰治 「古典風」
・・・わが国でも実業家政治家の中には人と会食するのが毎日のおもなる仕事だという人があると聞いてはいるが、三百六十五日間に四百回の宴会はどうかと思われる。それにしても、この四百回の会食を遂げたという事実の真実性を証明するための審査ははなはだめんどう・・・ 寺田寅彦 「記録狂時代」
・・・政治家も実業家も民衆も十年後の日本の事でさえ問題にしてくれない。天下の奇人で金をたくさん持っていてそうして百年後の日本を思う人でも捜して歩くほかはない。 汽車が東京へはいって高架線にかかると美しい光の海が眼下に波立っている。七年前のすさ・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
出典:青空文庫