・・・こっちから行くと先のが山本屋で、山本屋の方が客種がいいって話だから、そっちへお行でなせい。」 言いおいて、そのまま車夫は行ってしまう。私はじっとそれを見送っていたが、その提灯の影も見えなくなり、その車の音も聞えなくなってしまうと、きゅう・・・ 小栗風葉 「世間師」
・・・現在年寄夫婦が商売しているのだが、土地柄、客種が柄悪く荒っぽいので、大人しい女子衆は続かず、といって気性の強い女はこちらがなめられるといった按配で、ほとほと人手に困って売りに出したのだというから、掛け合うと、案外安く造作から道具一切附き三百・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・ 看守は、雑役の働く手先につれて彼方此方しながら、「この一二年、めっきり留置場の客種も下ったなア」と、感慨ありげに云った。「もとは、滅多に留置場へなんか入って来る者もなかったが、その代り入って来る位の奴は、どいつも娑婆じゃ相・・・ 宮本百合子 「刻々」
出典:青空文庫