・・・ あとへ引返して、すぐ宮前の通から、小橋を一つ、そこも水が走っている、門ばかり、家は形もない――潜門を押して入ると――植木屋らしいのが三四人、土をほって、運んでいました。」 ――別荘の売りものを、料理屋が建直すのだったそうである。・・・ 泉鏡花 「半島一奇抄」
・・・山中。宮前。貧家。座敷。洋館なぞで、これがどの狂言にでも使われます。だから床の間の掛物は年が年中朝日と鶴。警察、病院、事務所、応接室なぞは洋館の背景一つで間に合いますし、また、云々。』――『チャプリン氏を総裁に創立された馬鹿笑いクラブ。左記・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・朝日がまんべんなく冬宮前の広場にさしている。まだちっとも暑くない。軽い朝日を受けてこっち、ハルトゥリナ通りの方から一人、黒い書類入鞄を下げた女が急ぎ足で旧参謀本部、今のレーニングラード・ソヴェト行政部わきのアーチへ向って歩いて行く。そっち、・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
出典:青空文庫