・・・『われひとりを悪者として勘当除籍、家郷追放の現在、いよいよわれのみをあしざまにののしり、それがために四方八方うまく治まり居る様子』などのお言葉、おうらめしく存じあげ候。今しばし、お名あがり家ととのうたるのちは、御兄上様御姉上様、何条もってあ・・・ 太宰治 「帰去来」
・・・『われひとりを悪者として勘当除籍、家郷追放の現在、いよいよわれのみをあしざまにののしり、それがために四方八方うまく治まり居る様子、』などのお言葉、おうらめしく存じあげ候。今しばし、お名あがり家ととのうたるのちは、御兄上様御姉上様、何条もって・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・シカルニ、此ノ頃ノ君、タイヘン失礼ナ小説カイテ居ラレル。家郷追放、吹雪ノ中、妻ト子トワレ、三人ヒシト抱キ合イ、行ク手サダマラズ、ヨロヨロ彷徨、衆人蔑視ノ的タル、誠実、小心、含羞ノ徒、オノレノ百ノ美シサ、一モ言イ得ズ、高円寺ウロウロ、コーヒー・・・ 太宰治 「創生記」
・・・トマトを庭へ植えようかと思う。家郷の母へ、御機嫌うかがいの手紙を書きたくなる。これら、突拍子ない衝動は、すべて、どろぼう入来の前兆と考えて、間違いないようだ。読者も、お気をつけるがよい。体験者の言は、必ず、信じなければいけない。 いよい・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・及び鴉等は鳴き叫び風を切りて町へ飛び行くまもなく雪も降り来らむ――今尚、家郷あるものは幸福なるかな。 の初聯で始まる「寂寥」の如き詩は、その情感の深く悲痛なることに於て、他に全く類を見ないニイチェ独特の名・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・ 平和が齎されたとき、一つの文化的な記念として戦線から兵士たちが家郷に送った家信集が、是非収録出版されるべきである。今日、所謂高級ではない雑誌に時々のせられているそれらの手紙は、実に読者をうつものをもっている。これらの飾らず、たくまざる・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・拘禁生活をさせられていた人々ばかりでなく、どっさりの人は戦地におくられて、通信の自由でなかった家郷の愛するものの生死からひきはなされて、自分たちの生命の明日を知らされなかった。 きょう読みかえしてみると、日本の戦争進行の程度につれて・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第五巻)」
・・・ハフは出獄して、カナダにい、心を入れ更えて家郷への音信を怠りません。彼が、虐待し、早死した妻との間に生れた娘のロザリーは、名づけの祖母を母と呼び、ロンドンで一緒に暮しております。 小さいロザリーは、三度の御飯も皆と一緒に食べるし、褓母や・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
出典:青空文庫