・・・僕の胸は宿題をなまけたのに先生に名を指された時のように、思わずどきんと震えはじめました。けれども僕は出来るだけ知らない振りをしていなければならないと思って、わざと平気な顔をしたつもりで、仕方なしに運動場の隅に連れて行かれました。「君はジ・・・ 有島武郎 「一房の葡萄」
・・・ひとり、北川だけは机に向かって、宿題をしていました。 小田には、なにもかもわかっていました、自分が、パンを食べずに、弟にパンを買ってやったことも。この心があればこそ、このあいだも、自分の話をまじめにきいていてくれたのだと、小田は、思いま・・・ 小川未明 「笑わなかった少年」
・・・僕下らなく遊んでいたんじゃない、学校の復習や宿題なんかしていたんだけれど。 ここに至って合点が出来た。油然として同情心が現前の川の潮のように突掛けて来た。 ムムウ。ほんとのお母さんじゃないネ。 少年は吃驚して眼を見張って自分の顔・・・ 幸田露伴 「蘆声」
・・・ 宿題ひとつ。「私小説と、懺悔。」 こう書きながら、私は、おかしくてならない。八百屋の小僧が、いま若旦那から聞いて来たばかりの、うろ覚えの新知識を、お得意さきのお鍋どんに、鹿爪らしく腕組して、こんこんと説き聞かせているふうの・・・ 太宰治 「思案の敗北」
・・・お風呂番をしながら、蜜柑箱に腰かけ、ちろちろ燃える石炭の灯をたよりに学校の宿題を全部すましてしまう。それでも、まだお風呂がわかないので、東綺譚を読み返してみる。書かれてある事実は、決して厭な、汚いものではないのだ。けれども、ところどころ作者・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・ 宿題。国民服は、如何。 太宰治 「服装に就いて」
・・・宿題「チェック・チャックに就いて。」「策略ということについて。」「言葉の絶対性ということについて。」「沈黙は金なりということに就いて。」「野性と暴力について。」「ダンディスム小論。」「ぜいたくに就いて。」「出世について。」「・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・ そのころ先生は時々物理の宿題を出して生徒一同から答案を徴し、そうしてそれを詳しく調べた上で一同を集めておいてその答案に対する丁寧な講評をされた。その宿題を解くのが自分には実に楽しみであった。いつか「月蝕のときに、地球の半陰影が見えない・・・ 寺田寅彦 「田丸先生の追憶」
九月二十四日、日曜日、空よく晴れて暑からず寒からず。数学の宿題も午前の中に片付けたれば午後半日は思うまま遊ぶべしと定まれば昼飯待遠し。今日は彼岸にや本堂に人数多集りて和尚の称名の声いつもよりは高らかなるなど寺の内も今日は何・・・ 寺田寅彦 「半日ある記」
・・・に書物の包を抱えたまま舟へ飛乗ってしまうのでわれわれは蔵前の水門、本所の百本杭、代地の料理屋の桟橋、橋場の別荘の石垣、あるいはまた小松島、鐘ヶ淵、綾瀬川なぞの蘆の茂りの蔭に舟をつないで、代数や幾何学の宿題を考えた事もあった。同時にまた、教科・・・ 永井荷風 「夏の町」
出典:青空文庫