・・・柔和なる者は福なり、其人はキリストが再び世に臨り給う時に彼と共に地を嗣ぐことを得べければ也とのことである、地も亦神の有である、是れ今日の如くに永久に神の敵に委ねらるべき者ではない、神は其子を以て人類を審判き給う時に地を不信者の手より奪還して・・・ 内村鑑三 「聖書の読方」
・・・家庭内のどんなささやかな紛争にでも、必ず末弟は、ぬっと顔を出し、たのまれもせぬのに思案深げに審判を下して、これには、母をはじめ一家中、閉口している。いきおい末弟は、一家中から敬遠の形である。末弟には、それが不満でならない。長女は、かれのぶっ・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・この芸術家は、神の審判よりも、人の審判を恐れているたちの男でありますから、女房につづいて村役場に飛び込み、自分の心の一切を告白する勇気など持ち合せが無かったのであります。正義よりも、名声を愛して居ります。致しかたの無い事かも知れません。敢え・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・次の世の審判など、私は少しも怖れていない。あの人は、私の此の無報酬の、純粋の愛情を、どうして受け取って下さらぬのか。ああ、あの人を殺して下さい。旦那さま。私はあの人の居所を知って居ります。御案内申し上げます。あの人は私を賤しめ、憎悪して居り・・・ 太宰治 「駈込み訴え」
・・・恐らくは、訴うる者なんじを審判人にわたし、審判人は下役にわたし、遂になんじは獄に入れられん。誠に、なんじに告ぐ、一厘も残りなく償わずば、其処を出づること能わじ。これあ、おれにも、もういちど地獄が来るのかな? と、ふと思う。おそろしく底から、・・・ 太宰治 「鴎」
・・・ひとりでも多くのものに審判させ嘲笑させ悪罵させたい心からであった。有夫の婦人と情死を図ったのである。私、二十二歳。女、十九歳。師走、酷寒の夜半、女はコオトを着たまま、私もマントを脱がずに、入水した。女は、死んだ。告白する。私は世の中でこの人・・・ 太宰治 「狂言の神」
・・・神の審判の台に立つ迄も無く、私は、つねに、しどろもどろだ。告白する。私は、やっぱり袴をはきたかったのである。大演説なぞと、いきり立ち、天地もゆらぐ程の空想に、ひとりで胸を轟かせ、はっと醒めては自身の虫けらを知り、頸をちぢめて消えも入りたく思・・・ 太宰治 「善蔵を思う」
・・・不文の中、ところどころ片仮名のページ、これ、わが身の被告、審判の庭、霏々たる雪におおわれ純白の鶴の雛一羽、やはり寒かろ、首筋ちぢめて童子の如く、甘えた語調、つぶらに澄める瞳、神をも恐れず、一点いつわらぬ陳述の心ゆえに、一字一字、目なれず綴り・・・ 太宰治 「創生記」
・・・ 審判する勿れ。ナポリを見てから死ね! 等々。仲間はかならず二十代の美青年たるべきこと。一芸に於いて秀抜の技倆を有すること。The Yellow Book の故智にならい、ビアズレイに匹敵する天才画家を見つけ、これにどんどん挿画をかかせる。・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・ スタートラインに並んで、未だ出発の合図のピストルの打ち鳴らされぬまえに飛び出し、審判の制止の声も耳にはいらず、懸命にはしってはしってついに百米、得意満面ゴールに飛び込み、さて写真班のフラッシュ待ちかまえ、にっと笑ってみるのだが、少し様・・・ 太宰治 「答案落第」
出典:青空文庫