・・・ 私は現代のあらゆる忙しい人たち、一日も新聞を欠かし得ないような人たちが、試みに寸暇をさいてこういう思考実験をやってみるという事は、そういう人たちにとって非常にいい事でありはしないか、また多数の人がそれを試みる事によって前に言ったような・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・すでに衣食を得て寸暇あれば、上士の教育を羨まざるを得ず。ここにおいてか、剣術の道場を開て少年を教る者あり(旧来、徒士以下の者は、居合い、柔術、足軽は、弓、鉄砲、棒の芸を勉るのみにて、槍術、剣術を学ぶ者、甚だ稀。子弟を学塾に入れ或は他国に遊学・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・一家の中の細々としたさまざまの用事は食糧事情の逼迫している今日、女を家庭の内部で寸暇あらせないと共に、家庭の外へも忙しく動かせる。どんな婦人でも、今の乗物には身軽こそがのぞましい。由紀子という人が、二人の子供を前とうしろにかかえて外出したと・・・ 宮本百合子 「石を投ぐるもの」
・・・ 日本プロレタリア作家同盟の書記長、コップ中央協議員等という忙しい仕事を熱心に果しながら、寸暇をおしんで作品をつくった。 同志小林が書記長に選出された頃、どんなことをしても一日に二枚は小説を書いているのだと話した。 去年四月・・・ 宮本百合子 「同志小林多喜二の業績」
・・・ 同志小林多喜二が、日本においてたぐいまれな国際的規模をもつ共産主義作家であったこと、同志小林が常に全力的であり、前進的であり、創作のために寸暇を惜んで刻苦したことは、彼に関する最も断片的な追想の中にさえ読まれた。 貧農の息子、搾取・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価に寄せて」
出典:青空文庫