・・・世の中には対人関係、人と人との触れ合いについてかなり淡白な関心しか持っていない人々もあるが、しかし人間の精神生活というものはその大部分、特に深い部分を対人関係に持っているといわねばならぬ。対人関係に気のない人は人生に気のない人である。生きる・・・ 倉田百三 「人生における離合について」
・・・ おとぎ話や伝説口碑のようなものでも日本の自然とその対人交渉の特異性を暗示しないものはないようである。源氏物語や枕草子などをひもといてみてもその中には「日本」のあらゆる相貌を指摘する際に参考すべき一種の目録書きが包蔵されている事を認める・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・生活と対人関係はより人間らしくなってゆく可能がふえます。慾張りでなくっても食べて行けるし、薄情にならなくたって、老後の安心は守られます。そういう条件を、自分たちの生活の中にどういう風に発見して、実現してゆくかということについて熱心に研究し、・・・ 宮本百合子 「社会と人間の成長」
・・・ あれやこれやの理由から、孝子夫人の資質を貫く熱い力は、よりひろくひろくと導かれ得ないで、日常身辺のことごとと対人関係の中で敏感にされ、絶えず刺戟され、些事にも渾心を傾けるということにもなったのではなかったろうか。 二昔ほど以前の生・・・ 宮本百合子 「白藤」
・・・「この点あなたが考えなおさないと、対人関係も仕事も正面には行かないと思う。生意気のようだが、何か肝心のものが欠けている。そう云う外側からだけの考えでは――」 三人とも熱し、千鶴子は帰る時眼に涙を浮べていた。 はる子のいうことが全・・・ 宮本百合子 「沈丁花」
・・・ この文章のはじめにふれたような幼年・少年時代の特別な境遇のために人に対して簡単に率直でない習慣がついたというばかりでもなく、父親であった人の性格をどこかうけついでいるらしくも思える藤村は、対人関係においては常に抑制したところのある人で・・・ 宮本百合子 「藤村の文学にうつる自然」
・・・には、竹造という文化団体関係の「対人関係における気の弱さ」をもった一人の階級人が主人公とされている。作者は、この作品において、竹造の基本的な非妥協性は認めつつ、いわばそれあるが故に一層はっきりとした基準によって客観的な批判の対象となり得る竹・・・ 宮本百合子 「文学における古いもの・新しいもの」
・・・約言すれば、自箇の天性があれほどいつくしみ信じ、暖く胸に抱いて来た愛の、対人的可能を、絶対に否定し尽さなければならないように見えて来たのです。無明のうちに安住することは本能が承知しない。はっきり自分にもその惨憺さのわかる遣りなおしも、ただ時・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
・・・私はこれら対人感情をただ一つの大きい愛に高めようと努力する。そのために絶えず自責の苦しみがある。複雑に結びついた感情ほど不安を起こす程度がはなはだしい。 しかしこれらの感情のすべてが一個人に集まるのは、ただ彼に対してのみである。それゆえ・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
出典:青空文庫