・・・彼等は豚小屋に封印をつけて、豚を柵から出して、百姓が勝手に売買することを許さなくするためにやって来たのである。 百姓達は、それに対して若者が知らして帰ると共に、一勢に豚を小屋から野に放つことに申合せていた。 健二は、慌てゝ柵を外して・・・ 黒島伝治 「豚群」
・・・で貸借の争議を示談させるために借り方の男の両手の小指をくくり合せて封印し、貸し方の男には常住坐臥不断に片手に十露盤を持つべしと命じて迷惑させるのも心理的である。エチオピアで同様の場合に貸し方と借り方二人の片脚を足枷で縛り合せて不自由させると・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・そうして、それを封印をして本国大学に送ってもらいたいというようなことを厳粛な口調で話していた。 領事のほうからは、本国の家族から事後の処置に関する返電の来るまで遺骸をどこかに保管してもらいたいという話があって、結局M教授の計らいでM大学・・・ 寺田寅彦 「B教授の死」
・・・一九三〇年の今日、朝鮮銀行の金棒入りの窓の中には、ソヴェト当局によって封印された金庫がある。〔一九三一年一、二月〕 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・亀やの包みは先方であなたからの手紙を見せてくれなければなどと普通でない面倒なことを云ったので手間どり、年末にやっととりました。封印がしてあって、靴、書類カバン、セル下着類が出ました。中に裏だけの着物が一枚あり。表をはがして着ていらしったので・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・という封印だけがかたくされて日々の実際に適切な国家的な保護をうけていない「国宝」たちのきょうの運命こそ危機にある。「国宝」をもっていると財産税がかかり、贈りものにすれば贈与税、売れば譲渡税。その負担にたまらなくなった美術ボスたちがあれこれ細・・・ 宮本百合子 「国宝」
・・・天皇の名によって行われていたスパイと憲兵の絶対的な軍国主義権力が崩れて三年四年たってみると、情報局の報道と大本営発表でかためられた偽りの壁と封印の跡が、あたらしい回想と、そこに湧く批判の真実に消されはじめた。一九四五年の秋「君たちは話すこと・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・戸棚には錠がおろされ、赤い封印がついている。 ――住んでいたのはこっちです。 三尺の戸がついていて奥の室へ通じる。入口の室の倍ほどの大きさの四角い室だ。どっちにしろごく小さい室だ。むきだしの木の床に粗末な赤ラシャ張りの椅子が三四脚あ・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・いつも封じめには封蝋の代りに赤だの青だののレースのような円い封印紙が貼りつけられた。小さい私は、そのテーブルのわきに立って、やがてオトーサマと紙からあふれるような字を書くことを習った。あとにはいつもつづけて、ハヤクオカエリナサイ、と書いた覚・・・ 宮本百合子 「父の手紙」
出典:青空文庫