・・・もう一人の従弟のT君はこの春突然やってきて二晩泊って行ったが、つい二三日前北海道のある市の未決監から封緘葉書のたよりをよこした。 ――その後は御無沙汰しておりました。七月号K誌おみくじの作を拝見し、それに対するいたずら書きさしあげて以来・・・ 葛西善蔵 「父の出郷」
・・・健吉からは時々検印の押さった封緘葉書が来た。それが来ると、母親はお安に声を出して読ませた。それから次の日にモウ一度読ませた。次の手紙が来る迄、その同じ手紙を何べんも読むことにした。 * とり入れの済んだ頃、母親とお安・・・ 小林多喜二 「争われない事実」
・・・書信 封緘葉書二枚。着物の宅下げ願。 運動は一日一度――二十分。入浴は一週二度、理髪は一週一度、診察が一日置きにある。一日置きに診察して貰えるので、時にはまるで「お抱え医者」を侍らしているゼイタクな気持を俺だちに起させること・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・左側に献立を印刷し、右手に松と二羽の丹頂鶴の絵を出した封緘にこのたよりはかかれている。裏の航路図に、インクであらましの船位がしるしてある。 書簡註。一九二九年の一家総出のヨーロッパ旅行は、父の経済力にとって、又母の体力・・・ 宮本百合子 「中條精一郎の「家信抄」まえがきおよび註」
・・・丁寧にたたんで使いのこりの封緘の間にはさまれているその電報を見たとき、ひろ子は、それを監獄で読んだときの重吉の思いを、そのまま、わが胸に感じた。網走へ。宮城へ。この電報はうたれた。その「イエ」は、この自立会のことであった。 壁が乾きたて・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・ 獄中で封緘が買いにくくなってから、私は友達にたのんだりして、封緘を買い集めてそれを差入れした。買った当時は、その封緘に印刷されていた四銭ですんだものが七銭になって、別に切手を貼り添えなければならなくなった。二銭のハガキに一銭足さなけれ・・・ 宮本百合子 「郵便切手」
出典:青空文庫