・・・という軍人専用の煙草を百本とにかく、百本在中という紙包とかえられて、私はその大尉のズボンのポケットに無雑作にねじ込まれ、その夜、まちはずれの薄汚い小料理屋の二階へお供をするという事になりました。大尉はひどい酒飲みでした。葡萄酒のブランデーと・・・ 太宰治 「貨幣」
・・・どんなにぼろぼろでも自分専用の楯があったら」「あります」私は思わず口をはさんだ。「イミテエション!」「そうだ。佐野次郎にしちゃ大出来だ。一世一代だぞ、これあ。太宰さん。附け鬚模様の銀鍍金の楯があなたによく似合うそうですよ。いや、太宰・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・あとで聞くとこれは箱根土地株式会社の作った道路で専用道路だからとの事であった。 峰の茶屋から先の浅間東北麓の焼野の眺めは壮大である。今の世智辛い世の中に、こんな広大な「何の役にも立たない」地面の空白を見るだけでも心持がのびのびするのであ・・・ 寺田寅彦 「浅間山麓より」
・・・ 柄の短いわりに刃の長く幅広なのが芝刈り専用ので、もう一つのはおもに木の枝などを切るのだが芝も刈れない事はない。芝生の面積が広ければ前者でなくては追い付かないが、少しばかりならあとのでもいい。素人の家庭用ならかえってこれがいいかもしれな・・・ 寺田寅彦 「芝刈り」
・・・ 翌十八日午後峰の茶屋からグリーンホテルへおりる専用道路を歩いていたらきわめてかすかな灰が降って来た。降るのは見えないが時々目の中にはいって刺激するので気がついた。子供の服の白い襟にかすかな灰色の斑点を示すくらいのもので心核の石粒などは・・・ 寺田寅彦 「小爆発二件」
・・・電燈会社の出張所へ掛け合ってみたが、会社専用のスイッチでなくて、式のちがったのだから、こちらで買ってからでないと付け換えてくれない。それでやむを得ず私は道具箱の中から銅線の切れはしを捜し出して、ともかくも応急の修理を自分でやって、その夜はど・・・ 寺田寅彦 「断水の日」
・・・ 十国峠までの自動車専用道路からの眺望は美しく珍しい。大きな樹木のないお蔭で展望の自由が妨げられないのがこの道路の一つの特徴であろう。右を見ると伊豆の国というものの大きさがぼんやり分かるようであり、左を見下ろすと箱根山の高さのおおよその・・・ 寺田寅彦 「箱根熱海バス紀行」
・・・軒をならべた露店に面して、よくみがかれた大きいショーウィンドをきらめかせているデパートはすべてが外国風な装飾で、外国人専用のデパートの入口には外国の若い兵士が番をしている。その入口を出て来る人の姿を見ていると、あながち外国人ばかりでもなくて・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・ 数台まって、やっと乗りこんだ電車は行く先の関係で殆ど労働者専用車だ。鳥打帽をかぶり、半外套をひっかけた大きな体の連中が、二人分の座席に三人ずつ腰かけ、通路まで三重ぐらいに詰って、黙って、ミッシリ、ミッシリ押し合っている。 電車は段・・・ 宮本百合子 「「鎌と鎚」工場の文学研究会」
・・・マリアはその一台を自分の専用にした。 戦傷者で溢れた野戦病院から、放射線治療班の救援を求める通知がキュリー夫人宛にとどく。マリアは大急ぎで自分の車の設備を調べる。兵士の運転手がガソリンをつめている間に、マリアはいつもながらの小さい白カラ・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
出典:青空文庫