・・・退かないと射殺すぞ」 遠藤はピストルを挙げました。いや、挙げようとしたのです。が、その拍子に婆さんが、鴉の啼くような声を立てたかと思うと、まるで電気に打たれたように、ピストルは手から落ちてしまいました。これには勇み立った遠藤も、さすがに・・・ 芥川竜之介 「アグニの神」
・・・――これが又右の手には小銃を持ち、左の手にはピストルを持って一時に二人射殺すと言う、湖南でも評判の悪党だったんだがね。………」 譚は忽ち黄六一の一生の悪業を話し出した。彼の話は大部分新聞記事の受け売りらしかった。しかし幸い血のよりもロマ・・・ 芥川竜之介 「湖南の扇」
・・・清八はこの御意をも恐れず、御鷹の獲物はかかり次第、圜を揚げねばなりませぬと、なおも重玄を刺さんとせし所へ、上様にはたちまち震怒し給い、筒を持てと御意あるや否や、日頃御鍛錬の御手銃にて、即座に清八を射殺し給う。」 第二に治修は三右衛門へ、・・・ 芥川竜之介 「三右衛門の罪」
・・・あえて日光をあびせてもてこの憐むべき貞婦を射殺すなかれ。しかれどもその姿をのみ見て面を見ざる、諸君はさぞ本意なからむ。さりながら、諸君より十層二十層、なお幾十層、ここに本意なき少年あり。渠は活きたるお貞よりもむしろその姉の幽霊を見んと欲して・・・ 泉鏡花 「化銀杏」
・・・打たれるくらいなら先ずこッちゃから打って、敵砲手の独りなと、ふたりなと射殺してやりましょ』『なにイ――距離を測量したか?』『二百五十メートル以内――只今計りました。』『じゃア、やれ! 沈着に発砲せい!』『よろしい!』て、二人・・・ 岩野泡鳴 「戦話」
・・・二人は、自分達が、もうすぐ射殺されることを覚った。二三の若者は、ぬがした軍服のポケットをいち/\さぐっていた。他の二人の若者は、銃を持って、少し距った向うへ行きかけた。 吉田は、あいつが自分達をうち殺すのだと思った。すると、彼は思わず、・・・ 黒島伝治 「雪のシベリア」
・・・ピストルでもあったなら、躊躇せずドカンドカンと射殺してしまいたい気持であった。犬は、私にそのような、外面如菩薩、内心如夜叉的の奸佞の害心があるとも知らず、どこまでもついてくる。練兵場をぐるりと一廻りして、私はやはり犬に慕われながら帰途につい・・・ 太宰治 「畜犬談」
・・・ 病犬を射殺するやや感傷的な場面がある。行きには人と犬との足跡のついた同じ道を帰りはただ人だけが帰ってくるのである。安価な感傷と評した人もあったがしかしそれがかなりな真実味をもって表現されている。殺す相談をして雪の中に立っている四人の姿・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
一 白熊の死 探険船シビリアコフ号の北氷洋航海中に撮影されたエピソード映画の中に、一頭の白熊を射殺し、その子を生け捕る光景が記録されている。 果てもない氷海を張りつめた流氷のモザイクの一片に乗っかって親・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・ またたとえば映画の中で一人の男が暗殺者のために思いがけなく射殺されるところがあるとする。突然なピストルの音とともにこの男が倒れる。その音が観客の正面の向こうのほうで響いたと思われるのに、ピストルを持った男がずっと横手のほうから現われて・・・ 寺田寅彦 「耳と目」
出典:青空文庫